特集・連載
USオールスターを盲信する必要はありません。This is Authenticの勘違い
ミニマルBEST靴、これさえあれば 欲しくて買った!はずなのに……「あれれ? 気づいたら全然使ってないじゃん(汗)」。そんなことありませんか? それ即ち“無駄買い”です。安くていいモノがあふれる今こそ、「これさえあれば」な超使えるモノをちゃんと見極めることが大切。オンオフ使える! 一生使える! そんな目線でいつも以上に熟考しながらセレクトしました。 この記事は特集・連載「ミニマルBEST靴、これさえあれば」#07です。
定番スニーカーを選ぶ国民投票を実施したら、間違いなくセンターの座を勝ち取るコンバースのオールスター。その真価と、洒落者の間で囁かれる“USオールスターこそ正統”の真偽を確かめるため、キーマンである高瀬英次郎氏(コンバースフットウェア 企画部 部長)を訪ねた。
CONVERSE
コンバースのキャンバス オールスター HI
1917年に誕生した説明不要の名作だが、1足完成するまでに81工程、約180人もの手を経て作られる工芸品であることは意外と知られていない。ここからは、そうしたスルーしがちだった物作りの背景も解説していただこう。
“現行モデルも、かつてのUS製オールスターの正統伝承者である!”
服好きの間で長らく伝承されていることがあります。それはUSオールスター、つまり“アメリカ製のオールスターこそ正統である”という考え。
お洒落に目覚めた学生時代に先輩から教え込まれたのか、はたまた雑誌をはじめとする各種メディアの情報に感化されたのか。入り口は人それぞれだと思いますが、この“USオールスター=正統”、“US以外のオールスター=亜流”というイメージは、ファッションに興味のある人なら誰もが漠然と抱いているものなのではないでしょうか。
私の立場でこう断定するのは身内びいきと思われるかもしれませんが、人生の半分近くをコンバースに携わってきた身として、自信を持ってお伝えしたいと思います。純粋に
そして、この思いは必ず「オリジンを愛する皆さん」にも共有していただけると確信しています。
現行モデルがUSオールスターと違いがない理由とは
そのためにはまずオールスターの生産背景をお伝えしなければなりません。
ご存じの方も多いと思いますが、コンバースのノースカロライナ工場は、財政状況の悪化に伴って2001年初頭に閉鎖を余儀なくされました。これはつまり、母国アメリカでオールスターが生産されなくなったことを意味します。
この一報を聞いてUSオールスターを探し求めてショップをハシゴした方も多いのではないでしょうか。
正直、私もその気持ちは痛いほどわかります。服好きにとって最も身近なメイド・イン・USAのひとつだったので、寂しさや焦りを感じるのは当然だと思いましたし、実際に私自身も残念でなりませんでした。
しかしノースカロライナ工場の閉鎖後、日本向けのオールスターは主要生産地をインドネシアに移したのですが、実はこの工場移転こそ、むしろUSオールスターを守る転機となったのです。
というのも、インドネシア工場のオーナーはオールスターに心底敬意を抱き、この名品を継承することに誇りと使命感を持ってくれていました。そこで選択したのが、米国工場の生産方式を
米国生産時の生産責任者を新工場に招いたり、同じメーカーの同じ機械を導入したり、命である金属製ラストもそっくり受け継いだり、ゴムの配合比率等の秘伝レシピも守ったり……。徹底してUSオールスターの物作りを再現していったのです。
だからインドネシアで作られたオールスターは、USオールスターとなんら違いがありません。道具も作り方も受け継いでいるのだから、出来上がる靴が変わらないのは当然のこと。これこそ、先に“モノ目線で言うと現行モデルこそ正統伝承者”とお伝えした理由なのです。
アメリカ人の不真面目さを日本人が真面目に守っている
少し話は変わるのですが、USオールスターの魅力のひとつとしては、年代ごとによる“仕様変更”も挙げられるでしょう。
基本構造こそ1917年の誕生時からほぼ変わっていないものの、ラバーテープの高さやヒールラベル、サイドステッチの有無といったディテールは不定期に変更されています。
が、恐らくこの仕様変更は、特別な意図もあったでしょうが、そこにプラスして米国人の大らかさも関係しているんじゃないかな、と。
まぁつまりは、不真面目というか(苦笑)、細かいことにこだわらない気質が、仕様変更に結びついた一因なんじゃないかと思うんです。
ただ、これが図らずも今日モノ好きの蒐集欲を掻き立てる要因になっているのも事実。そこで私たちは’60年代の意匠を再現したモデルを“コンバース アディクト”で、’80年代モデルを“オールスターJ”で、’90年代以降モデルを現行の“レギュラー”としてリリース。
シリーズによっては機能面をモダナイズしていますが、“年代によって仕様が異なる”というUSオールスターの側面まで伝えるため、アメリカ人の不真面目(?)が元で生じた見た目の変化を、日本人が真面目に守り通しているのです。
’60年代継承 CONVERSE ADDICT
精緻なサイドステッチあり
“進化するヴィンテージ”をコンセプトとする旗艦シリーズ。スリースターラベルやサイドステッチ等、オールスターの基本形が完成した’60年代の意匠を再現しつつ、ビブラムソールを備える等、機能面は改良。参考商品。


’80年代継承 ALL STAR J
つま先の反りが穏やかな’80年代仕様
他の年代に比べてトウの反りが穏やかな’80年代ラストを採用。生成りテープや綿製シューレースを使って当時の雰囲気を再現している。ヒールラベルには日本製の証も。1万2000円(コンバースインフォメーションセンター)


’90年代~継承 REGULAR
ソールまわりのラバーテープは低め
’90年代から2001年に米国生産が終了するまでの間に採用されていた仕様は、細部まで現在展開されているレギュラーモデルに受け継がれている。歴史は現在進行形なのだ。5800円(コンバースインフォメーションセンター)


「いつでもどこでも誰でも」その振れ幅の大きさがオーセンティックの証
こうして100年以上にわたって連綿と作り続けられているからこそオールスターが持ち得たのは、他の靴にはない懐の深さ。
バッシュとしての出自を持ちながら、ファッションとしても受け入れられ、いつどこで誰が履いても“似合わない”とか“時代遅れ”とは感じない。お洒落として履いている若者もいれば、絶対にお洒落を意識して履いてない野暮っためのおじさまもいる(苦笑)。
その振れ幅の大きさこそ、オーセンティックであることの証ではないでしょうか。
コンバースフットウェア 企画部 部長
高瀬英次郎さん
’99年入社後、営業、マーケティング、企画、開発を経て2017年現職に。25年間コンバースに携わる生き字引的御仁だ。オールスターはなんと11ハーフ(30cm)を愛用!
※表示価格は税抜き
[ビギン2019年4月号の記事を再構成]スタッフクレジットは本誌をご覧ください。