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1000回着たくなる服/【COVEROSS】と語るミライ服vol.6

OpenAIがChatGPTを公開して以降、急に身近な存在となったAI。ナノテクノロジー、コールドフュージョン、タイムトラベル……。先端技術が今、実際のところどこまで進んでいるのか、研究者でもない私たちが知る機会はなかなかない。
一方、私たちが毎日着ている「服」も、最近ずいぶん進化しているような気もするが、相変わらず夏は暑く、冬も外へ出たくない。洗濯も面倒だ。しかし、もう少しすると35℃の真夏でも快適にゴルフができて、氷点下でも外出がしたくなる、しかも洗濯不要! そんな服が当たり前になるかもしれない。
そんな“新しい当たり前”を作らんとするブランドが、機能服のテクノロジーを日々前に進め、ファッションだけでなく産業界や行政からも話題を集めている「COVEROSS®(カバロス)」。我々の「衣」がこの先どこに向かって、今はどこまで来ているのか? Beginは密着取材を通してカバロスに聞いてみることにした。

テーマは「デニムの再構築」
COVEROSS W第2弾

異分野のプロフェッショナルがタッグを組むことで、価値を倍増させる──そんな思いを胸に立ち上げた、ビギンとカバロスによるコラボレーベル「COVEROSS W(カバロス ダブル)」。その第1弾商品として、連載第5回では“ICEを纏う服”「ICE PACK Tee(アイスパックT)」を紹介したが、4月15日(火)満を持して第2弾商品の「HEAT SHIELD DENIM(ヒート シールド デニム)」がリリースされた。テーマは「デニムの再構築」。なぜ夏を前にデニムにフォーカスしたのか。記事タイトルの「1000回着たくなる」工夫とは。今回はその理由と製品に込めた思い、この商品ならではの魅力について掘り下げたい。

密着取材するのは……

hap 代表取締役社長 鈴木 素さん

繊維商社に7年間勤めた後、2006年に「hap(ハップ)」を設立。アパレル製品のOEM等を手掛けながら、世界初の快適多機能素材「COVEROSS®(カバロス)」シリーズを開発する。カバロスは、単なる後加工ではなく、素材選定から設計・加工・評価に至るまでを一貫して行う、hap株式会社の独自技術ブランド。数十種以上の機能性の組み合わせが可能で、アパレル、寝具、スポーツ、ワーキング、ウェルビーイング分野まで展開されている。アパレル分野で初めて内閣総理大臣賞(第11回技術経営・イノベーション賞)を受賞し、その革新性と社会貢献性が高く評価された。

ミライ服 共犯者No.6

Begin グローバル戦略部 本田純一

2007年に世界文化社へ入社。パズル誌の編集を経てビギン編集部へ移り、現在は雑誌メディアの枠にとらわれず世界へ向けた発信を行うグローバル戦略部のリーダーを務める。ハップ代表の鈴木さんとは昨年6月に出会い、意気投合。密着連載を進めながら、コラボレーベルの設立に奔走する。座右の銘に「生きるはつなぐ」。

長きにわたって着たいと思えるよう、化学の力を通じて洋服へ付加価値を与える──。カバロスはかねてより、大量生産、大量消費が当然とされ、そのためには環境汚染や労働者の人権侵害もまかりとおるアパレル産業の現状を変えるべく、サーキュラーファッションの実現に注力してきた。カバロスを手掛けるハップ鈴木社長は、今回「デニムの再構築」にフォーカスした背景について次のように語る。

「アパレルは石油産業の次に環境負荷が高い産業で、なかでもデニムの生産が最も環境に負荷をかけるといわれています。まず、原料であるコットンを栽培するのに大量の水を使います。綿花の産地は乾燥地帯が多く、雨水だけでは足りずに地下水を汲み上げるんですね。またデニムは染色の後に加工で色を落としたり、なかには新品なのにビリビリに破いて販売したりする。生産に子どもが関わっている児童労働も社会問題になっています」。鈴木社長は語気を強める。

「色を落とすのにもさまざまな薬剤を使うのですが、川に垂れ流している工場もあって。ある南アジアの国の話ですが、工場はキレイなのに、近くの川が黒かったりするんですよ。それでもサステナブルデニムを謳っていたりする。これはいけないと、元々カバロスの主な事業がデニムのOEM生産ということもあって、改善に取り組んできました。カバロス ダブルの第二弾商品としてデニムに注目したのは、環境負荷削減へのインパクトを与える余地が大きいから、という理由があります」。

ビギン本田にも、デニムに掛ける思いがあった。
「一昔前よりもデニムを穿く機会が減っているという現状がまずあって。一般的なデニムだと、昨今は下手をすると5月でも暑いなと感じる人はいると思うんですね。一方で100年以上の歴史を誇るアイテムでもあり、いろいろなスタイリングになくてはならないもの、という側面もある。最近は鈴木さんの言うように環境に負荷をかけているという話もよく聞きます。だから、そういうあらゆるものを全部ひっくるめてもう一度、あらためて“いま穿きたいデニムは何か”、“いまあるべきデニムの姿は何か”を見つめ直そうと思ったんです」。
平たく言うと「かっこよく、機能的で、地球にやさしい」。日本の次世代ファッションの大テーマであり、ビギンとしても初の試みとなるESG型の商品開発への挑戦。
かくして探求の末に完成したヒートシールドデニムは、ビジネスとカジュアルがシームレスに繋がる現代のライフスタイルに即した、スラックス見えするキレイめの一本。そして季節も体型も選ばずに穿ける“究極のマルチラウンダー”となった。

新しい時代のスタンダードへ。
ディティールに光る「ミライ」へのこだわり

ヒートシールドデニムの生地は、オンス換算で9〜10オンスほどの厚み。標準的なデニムが14オンスほどなのを考えると、薄く、軽い。通年穿ける新しいデニムを考えての結論だ。
環境へも当然配慮し、経糸にはアゼルバイジャン産のオーガニックコットンを使用。同時に、肌に当たる面の緯糸には、異形断面のポリエステル糸へ熱伝導性の低い鉱物の“翡翠”を練り込んだ、独自の機能性ポリエステル糸を使用した。接触冷感性をもたせながら、遮熱機能やUVカット、抗菌防臭性も付与しているのが特徴だ。一見、陽光で熱くなりそうなダークインディゴカラーでありながら穿き心地はクールという、ヒートシールドデニムのヒミツがここにある。

そして、ヒートシールドデニムの大きな特徴となるのがワンサイズ展開であること。デニムというとインチ刻みのサイズ展開がスタンダードだが、穿いていれば体型が変わることもありうる。それでも穿き続けられるようにするための工夫が、ウエストゴム&ウェビングベルトなのだ。合わせてシルエットは、程よいゆとりを設けたテーパードに。窮屈さを感じずに穿けて、それでいてジャケットを羽織るようなオンスタイルにもハマるよう、クリーンに見えるバランスを追求した。

「ウエストが60cm台の人から110㎝台の人まで実際に穿いてもらったのですが、どの方もとても似合ってらっしゃいました。ユニセックスに穿けるというのも特徴ですね。販売がECサイトというのも鑑みて、丈は多くの人がなるべくサイズ調整をせずに穿けるジャスト丈に設定しています。ウエスト位置である程度、丈も調整できますし、デニムなのでもちろんロールアップして穿いていただいても構いません」(本田)。

ワンサイズ展開はまた、在庫余りによるロスを減らすという点でもメリットがある。“長く穿ける”との合わせワザによって、サーキュラーファッションの実現に貢献しようというわけだ。

ディテールに目を向けても、ヒートシールドデニムならではのこだわりが随所に見られる。たとえばポケットのスレキは、せっかくのデニムの接触冷感性をスポイルしないよう、肌に当たる面を通気性に優れるメッシュ地に。かつ伸びないよう反対面は通常の布帛にと2種類の生地を使い分けている。

フロントポケットは、キレイ見えするようスラックスタイプのスラント型に。合わせて旧時代の名残であるコインポケットは廃して、代わりに鍵や小銭入れなどの収納を考え、ジップ開閉のポケットを配置した。

ヒップポケットも、スラックスタイプの肩玉縁ポケットを採用。右のポケットは2分割されていて、アウトサイドの収納はスマホがちょうど収まるほどの幅に設定している。これはヒップポケットにスマホを入れたまま、突っ張ることなく座れるようにするための工夫。座ったまま、スマホを出し入れすることも可能だ。

「育てるデニム」を再解釈。
業界初!?の衣類用ICタグ搭載

ロープ染色によって糸の周囲のみをインディゴに染色したデニムは、穿いて、洗って、を繰り返すことにより色落ちをする。色落ちは、穿く人それぞれの体型やクセ、ライフスタイルによって異なる。穿くほどに自分色に育っていくのは、デニムを象徴する魅力である。 新しい時代のデニムを追求したヒートシールドデニムも、育てる楽しさを大切に考えた。ダークインディゴの発色にこだわったのは“コーデを選ばないクリーンなルックス”を追求した、未加工により環境へ配慮した、ということもあるが、“育てるデニム”という原点を大切にしたかったからでもあるのだ。

「そもそもは“ルーパック”というエコバッグを作られているミルクボトルシェイカーズさんという会社のアイデアなのですが、彼らはエコバッグを使うことで環境へ貢献しているのを楽しめるようにと“エコバッグを使うたびに、キャラクターがレベルアップする”、“レベルアップすることで貰えるポイントが増える”といったことを、ICタグを活用して実践されているんですね。つまりゲームを楽しむような感覚でエコバッグを育て、育てることで社会貢献できると。将来的にですが、僕らはデニムでこれをできないかと考え、ミルクボトルシェイカーズさんの展開するアパレル特化型サービス“tsukumo(ツクモ)”と連携し、レザーパッチの裏にICタグを内蔵させました」

このICタグは、タッチ決済などができるNFC対応のスマホをかざすと立ち上がる特設ページにて、現時点(2025年4月)では、このデニム1着を作るにあたって使用された水の量、CO2排出量、エネルギー使用量といったESGスコアが表示される。そして2025年秋には、ICタグを用いて、専用アプリとの連携やエコバッグに倣った「育てる」仕組みの構築など、様々なサービスを提供予定だ。なおESG評価には九州大学のスタートアップ企業「aiESG」の協力を得た。カバロスでは、可能な限り「科学的な社会価値の見える化」を推進しており、九州大学発のスタートアップaiESG社と連携し、環境負荷の定量化だけでなく、労働環境や社会的貢献も定量化。今後はOEM製品、海外展開品も含め、全ブランドでのESG評価を目指している。その詳細については別の機会に譲りたい。ビギン本田は、ここに込めた思いを語る。

tsukumoの特設ページはこちら。2025年秋には専用アプリをローンチ予定だ。
aiESG社の協力のもと、ESG評価を行った。こちらはアゼルバイジャン産のオーガニックコットンを使用したヒートシールドデニム(ブルー)と、中国産のオーガニックコットンを使った一般的なデニム(オレンジ)の国別のCO2排出量の比較だ。円が大きいほど負荷が大きいことを示す。

「すべての服は、世界中の環境、そこで暮らす人々とつながって作られているということを感じながら穿いてほしいというのが我々の願いです。情報の見える化によって、ちょっといいスーパーで買う産地直送野菜のポップじゃないですけど、綿花の栽培から縫製、加工にいたるまでの過程や作り手、我々がどんな思いでこのデニムを作っているのかというのを感じていただけたらと思うんです。そうして生まれる愛着も、長く穿きたい、育てたいという動機になるじゃないですか」。

そして「このデニムを何回穿いただとか、スマホのGPSとの連携によって一緒に世界一周をしただとか、アプリの開発を通じてそういう情報まで見える化できるようにしたい」というのが、将来の夢である。ハップ鈴木社長が続ける。

「使い捨ての文化を変えたいというのが我々の願いなんです。クルマを捨てる人はいないのに、服は平気で捨てるのって、考えてみればおかしいじゃないですか。とはいえ環境、環境と言葉を投げかけるばかりでは、みんな疲れちゃう。だから“育てる”のを楽しめる仕組みづくりに意義がある。ゆくゆくは“何回穿いた?”“自分は今日で55回目”、なんてのを、いろいろな人と遊びながら楽しめる仕組みをつくりたいですね」。

ファッションにおける究極のサスティナブルとは、お気に入りの服を繰り返し長く着ること。ヒートシールドデニムが、多くの人にとって1000回でも2000回でもずっと穿いていたい!と思える存在になってくれたら、こんなに嬉しいことはない。

リアルな穿き心地をレビュー!

試着したのは、本連載の執筆を担当する身長178cm、体重60kgのライター秦。当日は3月ながらコートいらずの温かな陽気だったのですが、脚を通した瞬間に早速“ちべたいっ!”と接触冷感の洗礼を浴びることになりました。あと、9〜10オンス相当とあって、穿き心地がとても軽い。肌に当たる面の緯糸は異形断面のポリエステルということですが、じつに滑らか&柔らかなタッチで、いわゆるデニムからは想像できない心地よさを感じました。

丈感は、ウエストをウェビングベルトで縛ってジャストの腰位置で穿くと、ちょうどノークッションで穿けるくらい。このあたりは、腰穿きしてクッションをつけてもいいでしょうし、サンダルならロールアップで足首を見せてもいいでしょう。

フィット感はゆったりめ。立ったりしゃがんだりの動作も楽にこなせますが、裾に向かってスーッとテーパードしているのと、ダークなインディゴカラーが相まって、見た目の印象はじつにクリーンですね。シーンやコーデを問わずにシームレスに穿けるデニムを──という製作意図がよくわかりました。

影の出方を見れば当日がどピーカンだったことがおわかりになると思いますが、特筆したいのは30分ほど外にいたのに、まったく太陽光による熱さを感じなかったこと。普段はクラシックなオンスのデニムを愛好しているだけに、この遮熱&接触冷感性には、初めて文明に出会った人間のような驚きを感じてしまいました。いやはや、技術の進歩ってスゴいですね(笑)。

デニムが好きで、他のワードローブもデニム中心に構築しているぼくのような人種にとって、夏も快適に穿けるデニムの存在はありがたすぎる。一本あれば、ついつい穿きまわしちゃうと思います。

【COVEROSS W HEAT SHIELD DENIM】

デニムの再構築を掲げ、あらためていま穿きたいデニムを探求。完成した、性別や体型、季節やシーンを超えて穿くことのできる新時代のデニム。パターンは腰回りや太腿にゆとりを設けながらもクリーンな印象のする、テーパードシルエットを採用。長年の愛用を可能にするべく、ウエストを体型が変わっても穿けるゴム&ウェビングベルト仕様とした。また肌に当たる面の緯糸に、翡翠を練り込んだ異形断面のポリエステル糸を使用。接触冷感性とともに、遮熱機能やUVカット、抗菌防臭性を付与している。1万6500円。Begin Marketにて好評発売中。

商品の詳細はこちらから。

次回告知

ファンの付いた衣服として昨今注目の的となっている「空調服」と、カバロスがコラボ。相思相愛!?の関係と、進行中のプロジェクトに迫る。

問い合わせ先/カバロス
https://coveross.jp/
info@hap-h.jp

※表示価格は税込みです


写真/岡田大聖 伏見早織 文/秦 大輔

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