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服飾べしゃり力が身につく[小林学の小噺学]

オーベルジュ・小林さんが考えるサステナブルの先駆けは、“ごま塩”こと「ビーチクロス」生地だった

服好き同士のしゃべり場で日夜繰り広げられる服飾トーク。知らなくても生きていけるネタを披露し合う瞬間こそ、服好きには至福のジ・カ・ン。ということで、業界屈指の服飾べしゃり力で洒落者を引き込むオーベルジュの小林さんを指南役に迎え、即話したくなる小噺をレッツ・スタディ♪

Profile
オーベルジュ デザイナー 小林 学さん

オーベルジュ デザイナー

小林 学さん

服飾漫談師

1966年生まれ。ヴィンテージにモードにフレンチと守備範囲は宇宙。べしゃり力も業界随一で、自身のYouTubeチャンネルでも服好き垂涎の小噺を軽快に繰り広げる、服飾亭の止め名。ちなみに題字は愛娘の小林凛さん著!

《ブラウンズビーチクロスの真相》
「あの“ごま塩”生地がサステナブルの先駆けだったとは……」

ブラウンズビーチ

オーベルジュでは表糸に最高級スビンコットン、中糸にスコットランド産ツイード、裏糸にスーパー100’sウールを採用したアップグレード版を開発。

最近じゃSDGsなんて言葉もすっかり浸透しきって、ファッション業界でも以前にも増して環境問題との向き合い方が問われるようになってきました。ということで今回は世の服好きのサステナ偏差値を上げるため、『ブラウンズビーチ』の小噺を。

えっ? 『ブラウンズビーチ』とサステナブルってなにか関係あるの!? な〜んて首を傾げるのも無理はありません。知識豊富なヴィンテージ通の間ですら、アメリカンワークの名門ブランド的なイメージこそあれ、決して環境配慮型のブランドとしては認知されてませんからね。ただ個人的には、ココこそがサステナブルの先駆者的ブランドなのでは? と考えています。
 
というのも、“ごま塩”の愛称で親しまれるここの顔的ファブリック、『ビーチクロス』を研究していた時、ある興味深い資料に行き着いてしまったんです。それは創業者のお孫さんが、ある博物館のホームページに寄稿した文書だったんですが、なんでも『ビーチクロス』は、英国で廃棄される予定だった中古の羊毛資材を買い取って、アメリカに持ち帰った後に粉砕し、再紡績した糸を利用していたんだとか!

つ・ま・り、なんと原初の『ビーチクロス』にはリサイクルウールが使われていたんです! 多分に、コスト面を考慮してのことだったとはいえ、サステナブルのサの字もなかった100年近く前に、すでに再生資材を使ってたなんて驚愕じゃありません!? 加えて個人的にはあの独特の“ごま塩”調の編み柄も、サステナブルに寄与していると考えます。
 
長らくLeeの古い広告を調べて気づいたんですが、アメリカの1920〜30年代頃の広告は、主にワーカーの旦那さまがいる主婦向けに作られていた節が。“丈夫”とか“汚れが目立たない”ような、旦那さんの服を買う主婦を口説く宣伝文句が多用されている。『ビーチクロス』がごま塩調に編み立てられているのも、白を混在させることで黒一色よりも汚れを目立ちにくくさせたのでは?

そんな風に想像を膨らませると、『ブラウンズビーチ』の製品は、再生資材を使いつつ、長く使えることも見越して作られた、サステナブルの先駆け的存在に思えるんです。永世定番の見方が変わると、改めて手に取ってみたくなりませんか?

はみだし用語解説
 

ブラウンズビーチ

❶ブラウンズビーチ
1901年に創業した米国の名門。防寒&機能性に優れた製品は、過酷な状況で働くワーカーやアウトドアマンたちに愛された。日本でもヴィンテージ好きにとっては垂涎の的。
 

ごま塩

❷ごま塩
代名詞の“ビーチクロス”は、表面はコットン、裏面はウールフリースという2層構造。表面が2色の糸を撚り合わせていることから、“ごま塩”と称される凹凸のある編み柄に。

 
※表示価格は税込み


[ビギン2025年5月号の記事を再構成]スタッフクレジットは本誌をご覧ください。

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