シンプルだけど奥深いスウェットの基礎知識Q&A
今もスウェット姿でダラ〜っとBeginを読んでる方も多いと思いますが、スウェットの「正体」を知ってる方はさして多くないかと。出自や製法、基本的な点からお勉強しましょ!
Q1.スウェットシャツっていつ誕生したの?
スウェット以前の練習着といえばウール素材だった
A. かつて運動着とは、吸放湿性を持つウールを用い、伸縮性を考えて編み立てたウールジャージー製(上の写真で男性が着ている物)だった。だが、紡績や加工の技術が未発達だった時代、それは硬くて動きにくく、お世辞にも肌触りがいいものではなかった。
そんなウールジャージーに劣らない伸縮性や吸水性を備え、なにより肌触りが抜群なコットン裏毛が登場したのは、1920〜’30年代にかけてのこと。
服飾の原料といえばリネンやウールであったヨーロッパに対し、コットンが大量に生産可能なアメリカでは、そんなコットン裏毛がアスレチックウェアの素材として、爆発的に普及し独自に発展。1930〜’40年代には、今日のようなスウェットシャツが確立された。
五輪選手も愛用した最先端ウェア
1924年のパリ五輪に挑む短距離ランナーたちを描いた傑作映画『炎のランナー』には、コットン製のスウェットシャツと思しきトレーニングウェアを着たアメリカ代表選手が登場する。スウェットはこの時代の最先端ウェアだったのかもしれない。
Q2.スウェットの裏が起毛しているのはなぜ?
A. スウェット生地のなかには、裏面のパイルを起毛させたものが多い。これはコットンが、かつてウールジャージーの安価な代用素材だったため、見た目だけでも高価なウールに近づけようとした名残だ。
ちなみにネルシャツのコットンネルの起毛も、元は同じ理由。あの柔軟な肌触りや保温性には、そのような別の理由があったのだ。
柔らかな肌触りと保温性を備える
コットンがウールジャージーに取って代わった証である裏起毛。スウェット本来の吸湿性を重視しパイルのままのブランドも存在する。
Q3.グレー杢の起源は日本だった?
A. スウェットを象徴する色といえば、やっぱりグレー杢。ウールに似せて開発されたからだという説が有力だが、何を隠そう、このアイコニックな色をアメリカから日本に持ち込み完全再現したのが、1887年に創業した大阪のテキスタイルメーカー、新内外綿だ。
同社が約60年前に試行錯誤を重ねて完成させたグレー杢“GR7”は、現在国内でもっとも多く流通しており、グレーの基準色となっているとされる。
今日我々が、あのアメリカを感じる霜降りがかったグレーを手軽に愛用できるのは、ひとえにこの老舗のおかげといっても過言ではない。グレートな功績は、まさに敬礼モノである。
白と黒のわたを混ぜ合わせ霜降りのグレー杢を作る
モクティのスウェット
日本初のグレー“GR7”の糸を使い、希少な旧式吊り編み機で贅沢に時間をかけて編み立てた生地は、もはやヴィンテージそのもの。裏毛ゆえ3シーズン着られるのもうれしい。
Q3.スウェットはミリタリーアイテム?
A. 前述の通り、もともとはアスレチックウェアだったスウェットは“動きやすくて丈夫”を目指して作られていた。この実用性の高さを米国政府が見逃すはずもなく、トレーニングや野営用として軍に納入されることが決定。かのラッセルやチャンピオンも一翼を担っていた。
そんな硬派な背景を持つ個体は今、定番のカレッジモノに食傷気味なモノ好きの心を鷲掴み。ヴィンテージ市場で値段が高騰していると言う。
中でも1ジャンルを築いているのが、下4つに代表されるいわゆる「米軍学校モノ」。米国では各軍隊ごとに養成学校が設立されているため種類も豊富で、一期一会の出会いも少なくない。
U.S.NAVAL ACADEMY 米国海軍士官学校
NAVYロゴの下に鎮座するエンブレムには、実は極小の文字で正式な学校名が(読めない)。プリントを“ネイビー”カラーにしてるのも洒落が利いてるのでは。
U.S.MILITARY.ACADEMY 米国陸軍士官学校
こちらは’80年代前半のチャンピオンのもので、前面のネック部分にV字のリブパーツが備えられているのが特徴。ミリタリーの薫りが残っているレアな一着だ。
U.S.COAST GUARD 米国沿岸警備隊
茄子のような褪色した紺、通称“ナス紺”ボディと白ロゴの組み合わせが、海を警備する軍人にはピッタリ。なかなかお目にかかれないシロモノである。
CULVER MILITARY ACADEMY カルバー軍人養成学校
軍事大国アメリカには軍人養成学校がたくさん。なんと民間の“私立”校も存在しているのだ。このカルバーも、米国では有名な私立の軍人養成学校。
Q4.名産地が和歌山なのはなぜ?
A. 和歌山は日本屈指のコットン裏毛の産地。そのルーツは江戸中期、大坂の木綿・紡績とともに発展した紀州ネルとされる。その綿衣料生産の下地を活かして20世紀初頭にスイスより丸編み機を導入し、丸編みコットンメリヤスの産地となった。
なおコットン裏毛のようなループ状の組織に編んだ生地を総称し、日本では「メリヤス」といい、その古い呼称が「莫大小(ばくだいしょう)」。自由に伸び縮みし大も小もないことから名付けられ、転じて紀州では「いい加減なヤツ」という意味でも使われた。
旧式吊り編み機
1時間に約1mしか編めない時代が遺した幻の編み機
19世紀中頃に欧州で開発された吊り編み機は、糸に負担をかけずゆっくり編むことで柔らかな風合いと凹凸のある味わい深い表情に編み上がる。
シンカー編み機
現在最大派閥を築いている高速丸編み機
現在では、速度等をコンピューター制御されたシンカー編み機という高速丸編み機が主流。近年作られたスウェット生地は、ほぼこの機械で編まれたもの。
トンプキン編み機
吊り編み機に次ぐ古きよき編み機は今では希少な存在に
吊り編み機が生地を上から下に編み上げるのに対し、重力に反して下から上へと編み上げていく旧式編み機。今ではほぼ使われることのないレアな編み機だ。
Q4.代表的なスウェットの“袖付け”は?
A. スウェットシャツは、いくつかある袖付け方式により、モチーフとなった年代を大まかに知ることができる。セットイン=1930〜’40年代、フリーダム=1940〜’50年代、ラグラン=1950〜’60年代となるが、前がセットイン、後ろがラグランになったスプリットスリーブを採用したスウェットは現代にしかない。
フリーダム
スプリット
ラグラン
セットイン
もっと知っ得コラム
Q.ヴィンテージでよく見るディテールをご存知?
ここでは古着を漁っているときにしばし目にする著名な4の意匠をご紹介。どれも本来の機能に加え、良きスウェット選びの目印としての役割も担うツワモノ揃いです。知らなかった人も、レッツ学習!
❶輪編みリブ
名前の通り、輪っか状に編まれた接ぎのないリブのこと。肌触りがよく、耐久性にも優れるのが利点だ。生産効率を重視する近年、絶滅危惧状態になっているディテールのひとつとされている。
❷バインダーネック
ネック部分のリブパーツをボディの生地に挟み込んで(バインドして)縫い合わせる仕様のこと。この仕様であれば、着脱や洗濯を繰り返しても首が伸びちゃう心配なし。タフな意匠の象徴だ。
❸後付けフード
’50年代以前のパーカのフードは、スウェットに後から縫い付けた……つまり“後付け”されたものが主流だった。この取って付けたようなフードは、古きよきパーカの目印になっているのだ。
❹2本針ステッチ
2本の糸が並行に縫われている縫製仕様。強度を高めるために用いられる意匠で、とくに袖付けをはじめとする、負荷がかかりやすい部位に採用される。ワークウェア等に使われることも多々あり。
※表示価格は税込み
[ビギン2025年4月号の記事を再構成]スタッフクレジットは本誌をご覧ください。