世代を越えて受け継がれるのが“真のBASIC”。服のプロが語る「継承モノ」6選
受け継がせたいモノ編①
「身長と体重の同じ長男が重みに気づいたら譲りたい」
ナナミカ ディビジョン ディレクター 野村剛司さん
1971年生まれ。1993年にゴールドウインに入社し、2003年にグループ会社のナナミカに。奥さんとともに、中3、中1、小4の三人息子たちに服選びのイロハを指南することも多いそう。
ここ数年はフィルソンのダブルマッキノー自体も作られていないうえ、青 × 黒の配色も、ごくたま〜にしか復刻されず、古着市場では高値の花状態。そんな形と色、2役乗った希少品を野村さんが入手したのは、かれこれ30年近く前とか。
受け継がせたいモノ:FILSON/DOUBLE MACKINAW WOOL CRUISER JACKET
「もともと“ザ・男”な骨太系アメカジが好きで、定番の赤 × 黒は持ってたんですが、こんな美色は見たことがなくて、出会った瞬間すぐ購入したのを覚えています」。
以来長らく愛用していたものの、最近じゃめっきり着る機会が減ってしまったそうで、「最大の魅力だったはずの”重さ”が響く年齢になってしまって(苦笑)。今ではたまにキャンプの時に羽織るくらいなんですが、まだまだ伝統の24オンス バージンウール生地もやれてないし、手放すには惜しいなと」。
いつしか今年高校へと進学する長男に譲ろうかと考えるようになったそう。
「というのも、すでに身長も体重も僕と一緒になっちゃったんですよね。小さい頃から本気でサッカーをやってて、体もゴツくなってきたし、もう違和感なく羽織れるんじゃないかなって。ただ、いかんせん本人は驚くほど服に興味がない(苦笑)。友達と外出する時なんかも平気でサッカーチームのセットアップを着てこうとするから、チャンピオンのスウェット着せて、リーバイス501穿かせてって、僕の古着に着替えさせることも。いつかこの“重み”がわかる日が来たら受け継がせたいんですけど、いつになるやら(苦笑)」
(左)2000年代まで採用されていた旧タグも完備/(中)落ち感のあるシルエットもダブルの特権/(右)要所の生地が二重だから耐久性も防寒性も◎
受け継がせたいモノ編②
「我が子のように育てたからこそ息子に履かせたい」
ファッションライター いくら直幸さん
1978年生まれ。名だたるブランド&ショップの広告から男性誌まで、幅広いメディアで活躍。中学生の息子と小学生の娘には大人目線の洋服を買い与え、自分でコーデを組ませているとか。
照りっ照りに育て上げられたいくらさんの#875は、本誌でもエイジングの模範として度々紹介してきましたが、「これ以上酷使するのは忍びなくて……」と、最近はもっぱら観賞用に。
「ハマダーやキムタクの影響でアイリッシュセッターが大ブームだった1996年に、全国の取り扱い店に公衆電話から問い合わせまくって見つけた、83年製のデッドストック。レアな仕様が満載なのはもちろん、ゲットするまで苦労したし、さまざまなメンテ用品を駆使して大事に育てたし、とにかく愛着が半端ない。どれだけヤレても処分するという選択肢はありませんでした。妻にも、僕が死んだらこのブーツは価値のわかる友人に譲ってほしいと伝えていたくらいです」。
受け継がせたいモノ:RED WING/IRISH SETTER #875
ところが現在中学1年の長男が生まれてからは、継承先を変更。
「まだ彼には伝えていませんが、やっぱりゆくゆくはこの子に履いてほしいと思うようになって。とはいえ、まだ本人は全然ファッションに前のめりではなく、そもそもレッドウィングすら知らない。それに親父が履き古した靴なんて汚いから要らないって拒むかも(苦笑)。でも日頃から自分でコーディネートを組ませたり、夫婦2人でさり気なく服育もしてるから、いつかお洒落に目覚めて “履きたい”って言ってくれると信じてます。この一足との付き合いももうすぐ30年。ここまできたら、たとえ息子が興味をもたなくても、孫に譲って末代まで家宝にしてほしいですね(笑)」
(左)プリントの犬タグがファンが垂涎する1980年代製の目印/(中)メンテ用品や替え紐も同じく30年モノ/(右)羽根の前端には往年のレクタングルバータックが
受け継がせたいモノ編③
「長男には地元にいるお洒落なお兄さんになってほしい」
イル ワンエイティ デザイナー 金子敏治さん
1973年生まれ。昨年デザイナーの根本理津子氏と新ブランド「イル ワンエイティ」を創設。特に希少なパタゴニアのヴィンテージは、子どもたちの目につかない場所に隠して保管中(笑)。
かれこれ30年以上パタゴニア愛を貫き続ける金子さん。「20歳くらいの頃、スノボ用にスーパー・プルマ・ジャケットを買って以来魅了されちゃって、今では多分服以外も含めると100点以上は家にあると思います」。
そんな膨大なコレクションのなかでも、特に思い入れがあるのがフリースの始祖的存在、シンチラ・スナップTだそう。
受け継がせたいモノ:patagonia/SYNCHILLA SNAP-T PULLOVER
「もはや何着あるかわからないくらい持ってるんですけど、やっぱり配色センスがとにかく絶妙なんですよね。このブライトイエロー × ペリウィンクルなんかも、1989年秋冬の製品なのに今見てもめちゃくちゃカッコいいじゃないですか。軽くて暖かくて服としても優秀ですし、非の打ちどころがない」。
そう心底惚れ込むからこそ、いつか子どもたちに受け継がせたいなぁと考えていたら、「最近勝手に着回すようになって、まさかの継承完了(苦笑)。高1の長女と中1の長男の二人姉弟なんですけど、まだ僕より小さいのにオーバーサイズで着たりなんかして。長女はたまに“これ着たいんだけど何合わせればいいの?”なんて聞いてきて可愛いばかりなんですが、問題は長男のほう。扱いが雑で学ラン感覚で脱ぎ捨てるんです(苦笑)。ただ親父としては、昔から“地元に一人二人いるカッコいいお兄さん”になってほしいと思ってたけど、シンチラのおかげで少しは近づいた気がしてまんざらでもないなと。脱ぎ捨て厳禁を徹底して、これからも大事に着続けさせます(笑)」
(左)胸ポケがついた初年度の名作は今だに現役バリバリ/(中)パタゴニア特有の美色を挿すのがマイルール/(右)ネイティブ柄をはじめレアな色柄を膨大にストック中
※表示価格は税込み
[ビギン2025年4月号の記事を再構成]スタッフクレジットは本誌をご覧ください。