連載[令和に響く昭和のハナシ]
見る角度で絵が変わる昭和的な技術・レンチキュラー加工の「金閣寺の額装」でタイムスリップ
エモさ満点のジャポニズム傑作を知る[令和に響く昭和のハナシ]
昭和を愛し、昭和暮らしを謳歌する平山 雄による、後世に語り継ぎたい名作語り。今回は、子どもの憧れだったレンチキュラーが登場!

昭和ヲタク
平山 雄さん
古物商として働きながら、SNSやブログを通じて昭和をレポート。著書に『昭和ぐらしで令和を生きる』(303BOOKS)など。
一枚絵でワクワクさせる二次元を超えた3D技術の原体験
僕の場合、60年以上ある昭和の中でも、特に昭和30〜40年代にかけての高度経済成長期に惹かれるんですよね。その理由を明確に説明するのは難しいですが、一番の理由としては、やはり自分が生まれた時代だからかもしれません。
僕が生まれたのは昭和43年なので、正確には高度成長期の後半。ですが、生まれ育った頃に見た建物や生活用品などの多くは昭和30年代以前のものなので、昭和30年代のものでも自分の原風景と重なるものがたくさんあります。
そんな高度成長期の空気を強く思い出させるものとして、脚付きテレビやビニールワイヤーのカゴなどいろいろありますが、「レンチキュラー」もその一つ。
あまり一般的な単語ではありませんが、見る角度によって見える絵が変化したり、立体的に見えたりする、あの印刷技術のことです。「だっこちゃん」(昭和35年に玩具メーカーの「タカラ」から発売され空前の大ヒットとなった、空気で膨らませるビニール人形)の目といえば分かりやすいでしょうか。
今もこの技術を使った商品はありますが、僕が幼かった頃はもっと身近にたくさんありました。たとえば、「仮面ライダー」などのキャラクターのカードをはじめ、定規や下敷きなどの文房具から、ズックや手袋などの身に着けるものまで、あらゆるものにレンチキュラー加工が。思えばあれも一つの流行りだったんでしょうね。
今回ご紹介するレンチキュラーの「金閣寺の額装」も、そういった時代に作られたもの。おそらく、当時、京都の金閣寺周辺のお土産店で売られていたものだと思いますが、写真全体から奥行きを感じて立体的に見えるので、普通の写真よりも見る楽しみがあります。
レンチキュラーの構造については、写した角度が異なる2枚の写真を短冊状に細かく交互に並べ、それに合わせてカマボコ状の細長いプラスチックレンズを貼り合わせることによって、立体的な一枚絵を表現。
よ~く近づいて見てみると立体視を可能にする凹凸の加工が
ここからは主観にはなりますが、レンチキュラー加工の写真には独特の味わいを感じるんです。少しメタリックがかったような色合いや、不思議とミニチュアっぽく見えるような被写体など、どことなく現実の世界ではないような、ちょっとシュールな感じに。
立体感の具合も、完全な立体というよりも、平面の被写体が何枚も層状に重なって浮き上がって見えるんですよね。それらの幻想的な雰囲気が幼い頃の記憶と重なって、ただ見ているだけでも自然とあの懐かしい時代にタイムスリップしてしまいます。
拡張現実や仮想現実を可視化する近未来的ゴーグル「アップル ヴィジョン プロ」。着用者の目がゴーグルの外側に映し出される仕組みが話題だが、じつはこちらにも立体視させるレンチキュラーレンズが採用されている。
※表示価格は税込み
[ビギン2025年4月号の記事を再構成]スタッフクレジットは本誌をご覧ください。