花粉を不活化(※)する服/【COVEROSS】と語るミライ服vol.4

OpenAIがChatGPTを公開して以降、急に身近な存在となったAI。ナノテクノロジー、コールドフュージョン、タイムトラベル……。先端技術が今、実際のところどこまで進んでいるのか、研究者でもない私たちが知る機会はなかなかない。
一方、私たちが毎日着ている「服」も、最近ずいぶん進化しているような気もするが、相変わらず夏は暑く、冬も外へ出たくない。洗濯も面倒だ。しかし、もう少しすると35℃の真夏でも快適にゴルフができて、氷点下でも外出がしたくなる、しかも洗濯不要! そんな服が当たり前になるかもしれない。
そんな“新しい当たり前”を作らんとするブランドが、機能服のテクノロジーを日々前に進め、ファッションだけでなく産業界や行政からも話題を集めている「COVEROSS®(カバロス)」。我々の「衣」がこの先どこに向かって、今はどこまで来ているのか? Beginは密着取材を通してカバロスに聞いてみることにした。
「防ぐ」から「分解する」時代へ。
花粉対策の新しい幕開けに迫る
花粉シーズンの到来を、鼻のムズムズで感じとっている方も多いだろう。花粉症持ちの必携品といえばマスクだが、花粉がびっしり付いている気がして、外すときにも息をとめて目を瞑っちゃう、なんて怖がりの人もいらっしゃるのでは?
そんなアナタへ、耳よりも耳よりの情報がある。本連載の主役であるカバロスが開発を進める、“まったく新しい”アプローチによる花粉対策布マスクおよびTシャツが、もうすぐ完成の日を迎えるというのだ。
従来のマスクというと花粉を通さず、付着しにくくすることに重きを置いていたわけだが、カバロスの新技術『カバロスウルトラクリーンテクノロジー』を実装したそれは、加えて“花粉症発生原因物質のアレルゲンを分解する”機能を備えるという。抗花粉の試験では「ISO4333(繊維製品上における、花粉やダニなどに由来するタンパク質の減少度を測定する国際規格)」で98.9%減少という非常に高い数値でエビデンスも取得済み。合格基準は70%以上だというから、効果の高さが伺える。さらに、機能は抗花粉のみに留まらない。抗ウィルスに抗菌、抗カビにセルフクリーニング、消臭といった機能が、根本を同じくする原理によって付与されるというのである(これとは別にUVカット、吸水拡散機能も)。
世間的には不織布マスク>布マスクの認識が一般的だが、花粉症発生原因物質のアレルゲンを分解するという新しい機能はこの図式に当てはまるものではない。一体どういう理屈なのか? 開発を進めるプロフェッショナルに話を聞いた。
巨大建造物にも採用されている!?
花粉症発生原因物質のアレルゲンを分解するメカニズムとは
密着取材するのは……
hap 代表取締役社長 鈴木 素さん
繊維商社に7年間勤めた後、2006年に「hap(ハップ)」を設立。アパレル製品のOEM等を手掛けながら、世界初の快適多機能素材「COVEROSS®(カバロス)」シリーズを開発する。2023年1月には、さまざまな機能性をカスタマイズしながら付与・除去できる後加工技術を駆使した「カバロスのサーキュラーファッション」が第11回技術経営・イノベーション対象【内閣総理大臣賞】を受賞。座右の銘に「一日一生」。
ミライ服 共犯者No.5
ジャパンナノコート 代表取締役 島田誠之さん
独学で化学を学び2006年に起業。ナノマテリアルの研究開発、無機剤の接着技術に特化した会社を率いる、業界の風雲児。新型コロナウィルスのパンデミック下では、自社開発した可視光熱触媒コート剤を用いたデルタ株不活性効果を、京都大学とともに実証した。座右の銘に「先に人を幸せにする」。
理科の授業で習った「酸化還元」を覚えているだろうか? たとえば銀に酸素がくっついて酸化銀になることは「酸化」。酸化銀から酸素が取り除かれて銀になることは「還元」。抗花粉や抗菌、抗ウィルス、汚れといった、人間にとって避けたいものを分解したり無効化したりといった目的にも、酸化還元反応は用いられている。 ナノマテリアルの研究開発を行う企業であり、ハップの相棒であるジャパンナノコートの島田さんは次のように仕組みを説明する。
「インフルエンザウィルスは表面の“突起”を介して人体に感染するのですが、酸化還元反応を用いて油やタンパク質からなるその“突起”の構造を変えると、感染できなくすることができます。これを不活性化といいます。花粉も同様に、表面を変質させることでアレルゲン物質を不活性化できるのです。
ちなみに光触媒というのも酸化還元を利用するもので、紫外線を当てることで抗酸化物質の発生を促します。すると有機物の劣化が早まるので、汚れが分解されるとこういうわけです。昔、知識のない業者がクルマの塗装に光触媒のコーティングを施したことがあって、塗装ごと分解してしまい白っちゃけてしまった……というのは笑えない話ですね」
ジャパンナノコートとハップが共同開発を進める『カバロスウルトラクリーンテクノロジー』は、「従来の発想とはまるで違うアプローチで酸化還元反応を利用する」技術だとハップ鈴木社長は語る。そのコペルニクス的転回によって、抗菌、抗カビ、抗花粉といった機能を飛躍的に高めることに成功しているというのだ。アプローチの詳細は秘密ということなので伏せるが、驚くべきことに、真逆とも思える抗酸化(有機物の劣化を防ぐ)機能も、同じ酸化還元反応の原理で付与することが可能だという。
つまり生地や生地に触れる肌は守りながら、抗花粉や抗ウィルスなど、一度にさまざまな問題を解決できるのが「カバロスウルトラクリーンテクノロジー」の真骨頂だというのである。
さらに特筆すべきは、花粉や菌の不活性化を15秒以内に完了するというスピード感を目指していることである。一般的に、こうした性能を測る多くの試験が24時間の推移を測るものであるのに対して、15秒というスピードは驚愕ものだが、先のコペルニクス的転回がこれを可能にし得るという。中核は伏せつつ、酸化還元の効果を高めるための技術の1つについて島田さんは次のように説明する。
「うちは、ナノサイズの無機粒子(酸化還元をうながす触媒)を構築する技術をもっています。10cmのボールと1cmのボールの集合体を想像してみてください。大きさは同じでも、1cmの集合体のほうは表面積が100倍になるんですね。よって触媒の無機粒子を小さくすればするほど、触媒としての効果を高めることができます。さらに、同じナノサイズの粒子をダマにすることなくキレイに並べられれば並べられるほど、効果は高まると、こういうわけです」
「ナノ粒子をキレイに揃えるほど、表面積が大きくなります。ナノ粒子は、強力な分子間力によって基材に密着します」と図解で説明してくれたのは、ジャパンナノコートのアドバイザーを務める内田 茂さん。内田さんはその技術をさまざまな分野へ広めるコーディネーターの仕事もしているが、「世界中の化学薬品メーカーと30年以上にわたり付き合ってきましたが、分散剤を使わずにこれだけの精度で粒子形を揃える技術は、世界でもほかに知りません」という。

ちなみにこのナノテクノロジーを用いた薬剤は、汚れを付きにくくしたり、酸化劣化を防ぐべく、建築資材や屋外アート作品の塗装などにも用いられているいうが、島田さん曰く「アパレルで採用されるのは知る限り初めて」とのことだ。
化学薬品の使用量がぐっと減少!?
花粉対策がSDGsに結びつく
取材を行った1月某日は「カバロスウルトラクリーンテクノロジー」の加工を施した生地の劣化について測定を行うその日だった。実験場所は、有機物の酸化劣化の評価を可能にする「ケミルミネッセンスアナライザー」で知られる東北電子産業。今回の実験にも同測定器が用いられた。装置について、実験を担当した東北電子産業の鮫島良太さんは次のように説明する。

「ケミルミネッセンスアナライザーは、物質が酸化する極初期に発する、非常に微弱な光を検出する装置です。過酸化物由来の発光を測ってその進み方を評価するのですが、加熱したり酸素を加えたりすることで酸化の反応を進め、迅速な評価を可能にします。従来であれば劣化度合いを測る実験は時間を要するものでしたが、この技術により、商品開発のスピードを高められるメリットがあります」
今回の実験では、1.白地、2.デニム、3.コーヒー染め、の生地をそれぞれ、1.無処理、2.一般の酸化防止剤による加工、3.カバロスウルトラクリーンテクノロジーによる加工の3種類(計9種類)用意し、どの程度の劣化や退色が起こるかをテスト。酸化影響のない窒素下で200℃の加熱をしながら&酸素下で250℃までの昇温をしながら、と2種類の方法で試験を行った。
端的に結果を述べると、白地とデニムでは、一般の酸化防止剤による加工を施した生地が最も酸化劣化が抑えられたが、ほぼ同程度のレベルでカバロスウルトラクリーンテクノロジーの加工を施した生地の酸化劣化も抑えられた。一方でコーヒー染めの生地では、顕著にカバロスウルトラクリーンテクノロジーの加工を施した生地の酸化劣化が抑えられるという結果が導かれた。カバロスの鈴木社長は興奮気味に語る。
「白地とデニムでは一般的な酸化防止剤による加工を施した生地よりわずかに劣る結果になりましたが、酸化防止剤は実績を積んだ完成形ですし、そもそも酸化劣化を防ぐことに特化した薬剤。これに肉薄し、生地によっては性能を上回る結果を残せたということは凄い話なんです! なによりカバロスウルトラクリーンテクノロジーは、酸化防止が第一義ではなく、抗花粉や抗菌、抗ウィルスなどの多機能を目的にしたものなんですから」

「素材と加工との相性もおそらくあると思います。これから触媒となる無機剤量の調整をするなどして最適化を図ることになる」とは、ジャパンナノコート島田さんの談。まだまだ進化の余地が残されている点も、付け加えておきたい。
一度に多機能を付与することのできるカバロスウルトラクリーンテクノロジーには、使用する薬剤(触媒となる無機剤)の量を必要最小限に抑えられるというメリットもある。進化によって持続力が高まれば、さらに必要な薬剤を抑えられることを意味する。当然、環境負荷を抑えることに繋がる。
しかし、ここには矛盾も存在する。薬剤を開発するジャパンナノコートによってそれは、利益が減ることにほかならないのだ。その点、ハップとジャパンナノコートは、ビジネスとして持続可能な、対等な関係構築にも留意している。
ミライ服の技術を支える人のミライにも、きちんと向き合う。
それもまた、ミライ服をつくるうえでは欠かせないファクトというわけだ。
【カバロスプロテクトエア フェイスマスク】
生地に触れた花粉やウィルスを迅速に不活化(※)する「カバロスウルトラクリーンテクノロジー」を実装したマスク。抗花粉、抗ウィルスのほかにも、抗菌、抗カビ、消臭、セルフクリーニング、UVカット、吸水拡散の8つの機能を備える。2月21日(金)発売。1,320円
3月下旬には同機能を備えた「カバロスウルトラクリーンTシャツ」(8,800円)も発売予定だ。来たる花粉症シーズン、快適に過ごすためにもミライ服のテクノロジーを活用されたし!
※花粉のタンパク質(アレルゲン)の低減性機能
次回告知
Beginとカバロスのコラボブランド「COVEROSS W」が誕生。プロダクト第1弾として、猛暑に備える新しいアプローチによる冷感服「ICE PACK T-shirt」をリリースする。次回はその正体&開発秘話に迫ります!
問い合わせ先/カバロス
https://coveross.jp/
info@hap-h.jp
※表示価格は税込みです
写真/田邨隼人 文/秦 大輔