これだけは押さえておきたい、ダンディの代名詞・トレンチコートの基礎知識
意外と抜けてる基礎知識【BASIC KNOWLEDGE】
数あるコートの中でもまず知るべきはダンディの代名詞・トレンチコートだ
コートの中でもトレンチはなぜか、羽織るだけで自分を伊達男に仕立て上げてくれる気がしません? それは映画の影響か、軍由来だからか──。一度歴史から確認してみましょ!
[Q.]トレンチコートは何のために生まれたの?
[A.]トレンチコートの原型は第一次世界大戦中、戦場の英国兵士たちを冷たい風雨から守るために誕生した。だから、トレンチコートを象徴する意匠であるウエストベルトや背中のヨーク、袖口のストラップ、首元を覆うスロートタブ、背面はベントではなくプリーツを採用している点なども、すべては風雨をシャットアウトするための機能なのだ。
記章を付ける用のエポレット(左)/袖口もしまり風雨を通さない(中)/風の侵入を防ぐスロートタブ(右)
さらに、風向きに応じて合わせ方を変更できるよう、フロントはダブルブレストになっている。またベルトには金属製のDリングが施され、手榴弾や水筒などをぶら下げるのに使われた。イコニックな右胸のガンパッチも、本来はライフル銃を撃った際の衝撃を和らげ、生地のすり切れを防ぐという純然たる機能だった。
ちなみにトレンチとは塹壕の意味。この名前からも、塹壕戦が主だった第一次大戦下に生まれた軍用コートであることがよくわかる。
[Q.]刑事はなぜトレンチを着るの?
[A.]映画『カサブランカ』で男らしさの象徴となったトレンチコートは、その後ハードボイルドな映画やドラマに欠かせない存在となる。そして、そのハードボイルドなイメージがタフでクールな刑事像に集約され、刑事=トレンチの図式を固定化させる結果となった。
なお、刑事スタイルの新たなアイコンとしては『踊る大捜査線』の“青島”モッズパーカが記憶に新しい。で、コチラも出自はミリタリー。どうやら刑事には古今東西タフな軍モノが似合うようだ。
歴史に名を残す“トレンチ”偉人
アラン・ドロン
1967年公開のフランス映画『サムライ』で、日本の侍を思わせる寡黙な暗殺者を演じたアラン・ドロン。トレンチの持つストイックな機能美は、そのクールな役柄を際立たせるのに一役買っていた。
ソフィア・ローレン
今でこそ当たり前になった女性のトレンチ姿だが、先駆者といえばこの人。1958年公開のイギリス映画『鍵』で見せたセクシーでミステリアスな女性像は、世界中の男性のハートを鷲づかみにした。
[Q.]どうして“カーキ色”なの?
[A.]元来軍用だったトレンチコートは、誕生時、敵からの視認性が低いカーキ色のウールギャバジンで作られていた。その色は数々の特徴的なディテールとともに人々の脳裏に焼き付き、コットンギャバジン素材の誕生により一般に浸透した後も“トレンチ=カーキ色”のイメージが定着した。
素材はウールからコットンギャバに
重いウールから軽く撥水性の高いコットンギャバジン素材になることで、トレンチコートは街に浸透した。ただし色はカーキのまま。
え、ベージュじゃないの? と思う人もいるかもしれないが、じつはあの淡い茶褐色こそがカーキ(ヒンディー語で「土ぼこり」の意)。もっとグリーンの強いオリーブドラブとも、グリーン味のないベージュとも違うミリタリーカラーなのだ。
[Q.]トレンチはいつファッションになったの?
[A.]ファッションは一夜にして生まれる——とよくいわれるが、トレンチコートにおいてもまさにこの言葉が当てはまる。トレンチをファッションにしたのはズバリ、1942年製作の映画『カサブランカ』の劇中で、主人公リックを演じたハンフリー・ボガートのスタイルだ。
1942年の映画『カサブランカ』で男らしさの象徴に
ハンフリー・ボガートの抜群にこなれた着こなしが、トレンチコートを機能本意のミリタリーアイテムから男のファッションアイテムへと変えた。現在のトレンチコートのイメージは、まさにココから始まっている。
タフに着込まれたトレンチをベルトでギュッと体に縛り付けるその着こなしは、悲哀を胸の奥深くにしまい込み、気高く振る舞う男の姿を見事に代弁した。かくしてトレンチコートはダンディズムの演出に欠かせないアイコンとして、広く用いられるようになったのだ。
※表示価格は税込み
[ビギン2025年3月号の記事を再構成]スタッフクレジットは本誌をご覧ください。