誰もが「ポルシェ」に憧れるのはナゼか? 基礎知識から人気モデル、中古相場まで徹底検証
永遠の憧れ“フラッグシップカー”いったいどこがエライの?
“Q”uestion “11”
ポルシェ911が多くのクルマ好きを虜にする理由について、前ページで自動車ジャーナリストの渡辺敏史さんに解説していただきましたが、クルマ初心者でもこの名車のエラさをサクッと理解できるようお届けするのがこのコーナー。今さら聞けない素朴な疑問を11個ピックアップし、再び渡辺さんにわかりやすく答えていただきました。買う・買わない(買える・買えない?)はこの際置いといて、モノ好きの基礎知識として頭に入れておきましょう。
答えていただきました!
自動車ジャーナリスト 渡辺敏史さん
かつてビギンでも連載を持っていた超売れっ子。ポルシェは07年に1年落ちのボクスター(987型)、15年に2年落ちのケイマン(981型)と乗り継ぎ、20年に、今も乗る02年式の911(996型)のティプトロニック(AT)を購入。
[Q.1]「空冷エンジン」ってナニ?よりマニア度が高いの?
【A】「水を用いてエンジンを冷却する水冷と違い、走行風やファンで送り込んだ空気(風)で冷却するエンジンのことで、911は63年から98年までこの形式を採用。クラシックな方式ですが、シンプルな冷却構造だから整備がしやすいこと、何より独特の空冷サウンドにより、空冷時代の911を好むマニアはとても多く、今では値段もとても高くなっています」
[Q.2]「フラット6」ってナニがイイの?
【A】「フラット6とは、911が伝統的に採用する水平対向6気筒エンジンのこと。水平対向とは、シリンダーが左右に水平となるよう配置したエンジンを差し、バランサーなどをつけずとも、対になるピストン同士で互いの爆発の振動を相殺するメリットがあります。横幅は取りますが、エンジン高を低くできるため、クルマの重心を低くできるのも長所です」
[Q.3]なぜポルシェは今も「RR」を採用しているの?
【A】「リアエンジン・リアドライブ(RR)は、大きな駆動力を発揮するのに適しますが、総合的な合理性でいえばフロントエンジンのほうに分があり、現在の市販スポーツカーでRRは他に存在しません。それでもこの方式にこだわるのは、世界中のファン、そして何よりポルシェの技術陣が、RRこそが911のアイデンティティと考えているからでしょうね」
[Q.4]ATでもスポーツカーとして運転を楽しめる?
「昔の911が採用するATはダイレクト感に欠け、上手い人が運転するMTのほうが確実に速く走れました。しかし最近の911が採用するPDK(デュアルクラッチトランスミッション)は、人が行うミッション操作よりも遥かに速く走れます。新しい911に限っては、スポーツ性能の本質を味わうならATがむしろ正解で、MTはロマンでしかないのかも」
[Q.5]流線形を描くようなデザインの意味って?
【A】「911の伝統的なファストバックスタイルは、48年開発の356や、それ以前の39年に開発したポルシェ64から受け継ぐもの。RR車で最高の空力性能を発揮するとともに、ある程度の室内空間を確保するため導き出されたものです。70年代スーパーカーブームで一世を風靡したウェッジシェイプとは異なる有機的な色気があり、そこも911の大きな魅力です」
[Q.6]「911」なのに「992」?呼び名がいろいろあるのはなぜ?
【A】「911なのに、991や992などの呼び名があり、ややこしく感じる方も多いと思いますが、これは歴代の型色名。時計のRef.みたいなものだと考えればいいでしょう。なお初代911の型色名は901。当初はこれをそのままモデル名にする予定でしたが、プジョーが3桁数字の真ん中を0としたモデル名を商標登録していたため、真ん中を1に置き換えたんです」
[Q.7]同じカレラでも「S」や「GTS」などが付くワケは?
【A】「これはグレードを示しています。911のベーシックグレードがカレラ。4がつくと四駆になり、Sはさらにエンジンがハイパワーに。GTSはさらにハイパワーかつ、いろんなところがアップグレードされています。911はカレラファミリー以外にも、ターボやGT3のファミリーがあり、それぞれグレードのバリエーションも豊富に用意されています」
[Q.8]中古市場では安く買えるの?
【A】「13年落ちまでは認定中古の対象となるのですが、値段的なお得感はさほどないかも。というのも現在911の新車は完全な需要過多で、買いたくても買えない状況。認定中古は今すぐ911に乗りたい方の受け皿になっているから、値段も安くはないのです。安く買うなら、ボクのように認定から外れた年代のモデルで、しかも不人気のATが狙い目かもしれません」
[Q.9]下取り価格の動向は?
【A】「ここ、気になりますよね(笑)。911に限らず、ポルシェはいま世界的に凄まじい人気ですから、下取り価格も高く、ほとんど値落ちしなかったという話もよく聞きます。だから清水の舞台から飛び降りるつもりで買ってしまう人も多いのでしょう。ただ、ここ数年は異常相場のような気もしないではない。将来的にこの状態が続くとまでは保証できません」
[Q.10]維持費がメチャメチャ高い気がしますが?
【A】「古い空冷の911はそれなりにお金がかかりますが、水冷の911はそんなに維持費はかからないのでは。ボクの20年落ち911も大きな故障はなく、点検や車検も普通の国産車の倍ぐらいで済んでいます。そもそも911は、スポーツカーでありながら普段の足にも使える実用車として作られているので、他の輸入スポーツカーよりコスパはいいと思いますよ」
[Q.11]モノとしての立ち位置は何にたとえられると思いますか?
【A】「パッと見てそれとわかるデザイン、変わらないように見えて細やかに進化し続けているところなど、ロレックスに似てません? 最近の高騰ぶり、とくに古い空冷911の凄まじい値上がり具合などは、ヴィンテージの手巻きデイトナのそれとリンクしますし……。ちなみにポルシェ好きにはロレ好きが多いのですが、立ち位置が似ているからでしょうね」
3種の911の中古相場もおさえておこう!
新車はもちろん、中古車でも高値なポルシェの911だが、1つのクルマとしては一括りにできないほど歴代モデルがあり、それぞれに多くのグレードが存在する。その中でもとくに注目されているのがベースモデルである“カレラ”とスペシャルモデルの“役付き”、そして通称“空冷ポルシェ”という3種の911だ。
911に乗るならまずは“カレラ”から
ベースモデル
ポルシェ[PORSCHE]
911 カレラ
【いつかは911を!と思うなら992型の中古車動向に注目】
カレラは911(992型)のスタンダードグレード。デビュー当初は2輪駆動のカレラ、高性能版のカレラS、その4輪駆動であるカレラ4Sをラインナップ。後にさらなる高性能版として、2駆と4駆のGTSを追加。スタンダードといってもカレラの最高出力は385ps、最大トルクは450Nmとパワフル。そんな992型だが、本国ドイツで後期モデルが発表されたばかり。後期型が日本に導入されたら現行型の中古車増加が予想される。今後の相場動向に注目だ。
中古:1520-3300万円
競技用モデルで公道を走る
役付きポルシェ
ポルシェ[PORSCHE]
911 GT3
【トップアスリートのように特別に鍛えられた競技車両】
911には“役付き”と呼ばれるモデル=超高性能化されたスペシャルな車両が存在する。その1つがGT3。GT3とは競技車両のカテゴリーであり、レーシングカーのベース車両であることを表す。つまり911 GT3とはレースに参加できるように、サーキットで速く走るために仕立てられているのだ。これにRSがつくともっとスペシャルで、レーシングモデルを公道でも走れるように仕立てたモデルのこと。車両価格はスタンダードモデルの倍以上だ。
中古:3390-7000万円
生産されないから価値が上がり続ける
空冷ポルシェ
ポルシェ[PORSCHE]
911 [993型]
【単なる懐古主義ではなく空冷ゆえの気持ちよさがある】
もともと自動車用エンジンは発熱を空気によって冷やしていたが、今では水冷化が一般的。しかし、ポルシェは空冷にこだわり、空冷エンジンを993型まで搭載していた。その最大の特徴は乾いたエンジン音と、シンプルな構造ゆえにアクセルペダルに直結したような鋭いエンジン回転数の上昇具合が爽快。もはや生産されないために価値は爆上がり。最後の空冷エンジンを積んだ993型は、30年ほど前のクルマなのに高値で取り引きされている。
中古:890-3600万円