好事家・南 貴之のヴィンテージインテリア紀行[古具のほそ道]
「ホール・アース・カタログ」の現代的価値を考える
まだ見ぬグッドデザインに出会いたい―。その想いから世界中を渡り歩き、掘り出し物を見つけては手に入れ、また買い逃しもしてきた南 貴之氏。そぞろ神に憑かれた現代の旅びとがおくる、情熱と偏愛の古物蒐集譚。
本当に欲しくなるものにはストーリーがある
実はわりと最近まで、『ホール・アース・カタログ』は深掘りしてなかったんです。でも、ふと興味が湧いて何冊か買ったら、本質的なコンセプトに触れて、すごく考えさせられた。実際に中を見てみると、時代を感じるアウトドアギアなんかと並んでクラークスのワラビーが新しいデザインとして紹介されたりしていて。ちゃんと今も残っているものがセレクトされているっていうのが素晴らしい。
僕が10年ほど前にブランドを始めた時に掲げた「いつでも手に入る」とか、「高品質であること」とかっていうコンセプトを彼らは何十年も前にやっていたんだなと、僭越ながら共感するところが多いです。
今は僕もECの解析で「ページの離脱率が~」なんていう報告を受けるけど、本当にそこに合わせて変えていくべきなのか? とか、本当に欲しくなるものにはモノ以上のストーリーがあるはずだ、とか、いろんなことを考えるきっかけになる。クリックしてすぐに届くようになった現代は便利だけど、失われたものもきっと多くあるんだろうなぁ。
このカタログはイエス・ノーの判断が明確だし、「事業の透明性を保つため」って発行部数や制作コストの内訳なんかまで誌面に載せていて。モノを売るための媒体のようで、そこに意思や概念を生んでいる。広告も受け付けない、厳正な第三者目線。
「Stay hungry. Stay foolish.」のフレーズもそうだけど、やっぱり現代社会に足りないものがここにはある気がします。(南 貴之)
「宇宙船 地球号への 乗車券」
BRAND:PORTOLA INSTITUTE
ITEM:CATALOG
AGE:1968~1971
古びたページに宿る褪せないメッセージ
編集者、スチュアート・ブランドにより1968年に創刊。掲載物の選定基準は、道具として有益であること、自立教育に関連すること、ハイクオリティもしくはローコストであること、そして郵送で簡単に手に入ること。
DETAIL
実際に掲載された、1969FALLカタログ生産時のコストを示すグラフ。総制作費は3万3000ドルで、印刷・製本コストが約7割を占めている。発行部数は初版が6万部。

好事家
南 貴之
1976年生まれ。国内外のブランドのPR業をはじめ、型にはまらず活動中。公私混同しながら世界中を巡り、良品を探している。
※表示価格は税込み
[ビギン2024年10月号の記事を再構成]スタッフクレジットは本誌をご覧ください。