今日から始める美味しい暮らし[ベジカジライフ]
ちょっとした作業をレスキューしてくれる頼もしい腰巾着
「ビジカジ」に始まり、あらゆる分野でカジュアル化が加速する昨今。次のジャンルは? と問われれば、それはズバリ、ガーデニングである! ベジタブル×カジュアル、名付けて「ベジカジ」。週末農家・坂下史郎さんが徒然なるままに書き連ねる、ちょっぴり土臭くて小粋なファッション放談。
週末農家・坂下史郎のベジカジライフ
ヤングアンドオルセンのOLD AMERICAN POCKET PE
塩山で育てている宿根草(しゅっこんそう:生育に適さない冬期や乾燥期などに地上部は枯れるが、地下部は生きていて、外界の条件がよくなれば再び発芽・開花する草)で、毎年6月ごろの楽しみはアーティチョークができることだ。
初めて食べたのは随分昔のイタリア出張でのこと。遠方の工場に車で向かっていて、丁度お昼どきだったため、高速道路(autostrada)の途中でサービスエリアに立ち寄ることにした。そこで入ったレストランでオイル漬けを食べたのがアーティチョークとの最初の出会いだった。それがとても美味しくて、以来よく食べるようになった。
そして月日が流れ、その頃は考えもしなかった山暮らしをはじめた。4年ほど前に山梨県北杜市にある、日野春ハーブガーデン(庭にいろいろな植物を植えるためにちょくちょく通っている)に行ったときに苗が売られているのを見つけ、これは育てないと!と即決し、さっそく庭に植えた。
ところで上の写真を見て、どこを食べるんだ?と思った方もいるだろう。一応一番上に実っている蕾がそれにあたるのだが、食べるのはその中身ではなく、周りを鱗のように覆っている“ガク”の部分である。しかも食べられるのは、その付け根のイモのような箇所だけなのだ。葉も茎も蕾もほかの花たちに比べればかなり旺盛に育つ割に、可食部はほんの僅か。
ただ味は抜群で、その美味しさを示すこんな逸話もある。時は遡って19世紀末のアメリカ。当時のイタリア移民がアーティチョークの栽培を始めたところ人気が広がり、その資金がしばらくイタリア系マフィアの資金源となっていたらしい。それにニューヨーク市長もいよいよ業を煮やし、ついにはアーティチョーク禁止令まで出たそうな。
そんなアーティチョークの収穫に使ったのが、ヤングアンドオルセンのエプロンバッグ。これは古くからの友人の、多方面のビンテージに精通するデザイナー・尾崎雄飛くんが手掛けるブランドで、1940年代頃のアメリカ赤十字社で実際に使われていたエプロンバッグをモデルに作られている。その名の通り腰に巻いても、首から下げても使えるので、庭仕事にはちょうどいい。街でもこれを腰に巻いて今どきなサコッシュ風な使い方をすれば、周りとはまた違ったイメージで新鮮に映えそうだ。
最後に、アーティチョークにはもう一つとても魅力的なところがある。蕾の時期を経て開花すると、なんとも妖艶な花を咲かせるのだ。もう植えて4年目になったので、これが最後の開花かもしれないが、もし根絶えてもまた育てたい。
ヤングアンドオルセンのOLD AMERICAN POCKET PE
薬品や医療道具を持ち運ぶ救護活動用の袋がモチーフのバッグ。写真のミリタリー調の生地以外に、トーテムポールなどのアメリカンなプリント柄もあり、その頃小さかった私の子どもたちの為に2〜3パターン購入した記憶がある。W34×H40cm。8800円(三角形)
①生地も適度な柔らかさで、身につけていても違和感がなく軽作業にはちょうどいい。
②ミリタリー調のデザインもお気に入り。
③アーティチョークは一度植えると数年間は毎年蕾をつける「多年生宿根草」。この迫力ある花を見たいがために、毎年全てを収穫せずに蕾を2~3個残している。
今月のひと皿
アーティチョークの塩レモン煮
アーティチョークでは最もポピュラーな、塩とレモン水で茹でるシンプルな調理。ガクを一枚ずつ剥がし、付け根の部分にあるイモのような柔らかい箇所をマヨネーズやらバターやらをつけて歯でこそいで食べる。食感は日本でいうと百合根に近いのだろうか。
アーティーチョーク(CYNARA SCOLYMUS)
●キク科チョウセンアザミ属 ●全長:150cm前後 ●生態:多年草 ●原産地:南ヨーロッパ地中海沿岸
[一口メモ]アーティチョーク禁止令のその後だが、結局味の魅力に逆らえず、たった1週間で取り下げられたそう。
坂下史郎
さかしたしろう/1970年生まれ。セレクトショップや著名ブランドのMD職を経て独立。2015年から都内と山梨・塩山での二拠点生活を始め、以来週末の山暮らしがルーティンに。デザイナーとしての顔も持ち、自身が手掛けるブランド「221VILLAGE(221ヴィレッジ)」と「迷迭香(マンネンロウ)」には、その趣向を反映させた街⇄山で活躍する機能服が揃う。
※表示価格は税込み
[ビギン2024年8月号の記事を再構成]文/坂下史郎 写真/丸益功紀(BOIL)