【時計好き必読】究極と言われた「ポルシェデザイン」の革新性と官能性
50年以上独自のポジションで時計を作り続ける
ポルデザの魅力って?
年季の入った時計好きならその偉大さを十分理解しているでしょうが、若い世代にはいまひとつ「ポルシェデザイン」の時計の凄さがわかっていない人もいるかと。そこでポルデザの生き字引ともいえる山口さんに改めてここの時計の魅力を教えていただきました。
「ポルシェデザインを30年見てきました」
ノーブルスタイリング ギャラリー 山口幸徳さん
大学卒業後、外資系商社にてカルティエやIWC、ポルシェデザインなど数々の名門時計を担当。2004年に玄人好みの時計に絞って輸入販売を行うノーブルスタイリングの立ち上げに参画し、再びポルシェデザインの魅力を伝道し始める。
山口さんに聞いてみました……
「今」と「昔」のポルシェデザインの解釈
「昔」は…業界初オールブラック&チタン製の腕時計を生み出した“革新”的デザイン
「今」は…ひとくちにインダストリアルデザインでくくれないある種の“官能性”を纏う
[Q.]ポルシェデザインの基本理念はやはりバウハウスですか
「時計のみならず、革製品や文具、アイウェア、そしてアパレルと多彩なプロダクトを展開していますが、すべてに通底する“機能が形態を決める”という哲学は、たしかにバウハウスから多大な影響を受けています。ただバウハウスというと無駄を削ぎ落としたシンプルなデザインが主流ですよね」。
「ここの時計はそれだけではなく、クルマやモータースポーツからインスピレーションを受け、実際に技術をフィードバックしている。そこが他のバウハウス系の時計との決定的な違いだと思います」
[Q.]時計業界におけるポルシェデザインの功績を教えてください。
「様々ありますが、大きなものは2つ。1つ目は時計界初のオールブラック時計を手がけたことでしょう。ポルシェデザイン創設の1972年に、時計メーカーのオルフィナと組んで最初の『クロノグラフ1』をリリースしたのですが、真っ黒にコーティングされた外装といい、黒文字盤に白の針をセットしてコントラストが効いた文字盤といい、まるでクルマの計器のようだと大きな衝撃を与えました」。
初のオールブラック外装で名を馳せた「クロノグラフ 1」
「もう一つはIWCと組んでいた80年代に、チタン外装のクロノグラフを発表したこと。チタンは加工の難しさから、それまで宇宙産業や医療分野などにしか用いられておらず、それをあえて時計の外装に使った先進性が絶賛されました。オールブラックもチタンも、F・A・ポルシェが時計師でないからこそ採用したアイデアであり、今なおここが作る時計のアイデンティティとなっています」
堅牢で軽量なチタン製の「チタニウム・クロノグラフ」
[Q.]山口さん自身、最も印象に残るモデルはどれですか?
「やはり、83年誕生の『オーシャン2000』でしょうか。ドイツ軍の協力を得て誕生したチタン外装のダイバーズで、製造を担当したIWCの技術力もあり、当時の最高スペックである2000m防水を実現……というか、実際のテストでは3200mまで耐え抜いたことで知られます」。
「今では世界中でコレクターズアイテムとなっていますが、デザインが若干地味なため、発売当初はそんなに売れるモデルではなかった。でも98年にポルシェデザインとIWCとの契約が切れる直前の時期、ビギンが『今後、オーシャン2000が買えなくなる!』と煽ってくれたんです。すると爆発的に売れ始めて(笑)。日本の在庫がなくなってしまい、急いで世界中から掻き集めて各店頭に並べました」
2000m防水を実現した「オーシャン2000」
[Q.]現在のポルシェデザインはどんな体制のもとで時計を生産しているのでしょう
「ポルシェデザインはオーストリアにデザインオフィスを置き、ドイツのシュトゥットガルトにあるポルシェ本社とも連携しながらデザインを行なっています。時計の製造自体は長らく外部の時計メーカーに頼っていましたが、最後のコラボ相手であるエテルナが中国資本になったことをきっかけに2012年にスイスに自社ファクトリーを設立」。
「ムーブメントを含め、時計のすべての製造工程を自社で一貫して行えるマニュファクチュール体制を整えています」
[Q.]昔と今とでは購入するユーザー層は変わりましたか?
「昔はスイスの時計とは一味異なる、精密でハイスペックな時計としてコアな層に支持されていましたが、今はより幅広い層に受けていると感じます。インダストリアルデザインの究極であることは変わりませんが、無機質ではなく、どこか官能性を秘めたデザインの魅力に多くの人が気づいてくれたのでしょう」。
「よく雑誌などでは人間工学を駆使したウンヌン…と紹介されてきましたが、私はその文脈だけで語れるものではなく、もっとエモーショナルなものがここの時計にあると常々感じていました。このあたりはFAポルシェが手がけた911にも通じる。一生使える名作デザインの時計として、自信を持って太鼓判を押せます」
国内で手に入る見逃せない3本
1919 デイトタイマー
【バウハウスに敬意を表した上品かつ知的な一本】
1919はバウハウス設立年に由来。ケースとラグの間に空間を作ったことで、エッジの効いたデザインが一層際立って見える。10気圧防水。自動巻き。径42mm。チタニウムケース。ラバーストラップ。61万7000円。
クロノタイマー シリーズ1
【元祖オールブラックを継ぐポルデザ界のサラブレッド】
レーシング・クロノグラフの王道的なデザインを、オールブラックでクールにアレンジ。外装のポリッシュ仕上げにより高級感も満点だ。10気圧防水。自動巻き。径42mm。チタニウムケース&ブレス。88万330円。
クロノグラフ 1 ユーティリティ
【往年の名作が時を経てさらなるタフさを求め転生】
1970年代に製作され、各国空軍や海軍に使用された「ミリタリー・クロノグラフ」の象徴的なデザインを取り入れたモデル。10気圧防水。自動巻き。径42.7mm。チタニウムケース。カーフストラップ。253万円。
商品の問い合わせ先/ドイツ時計
☎ 03-6277-4139
※表示価格は税込み
[ビギン2024年8月号の記事を再構成]スタッフクレジットは本誌をご覧ください。