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May-11-2024

密にニヤリ 実際なぁに? そのコトバ[おとなの嗜み]

フレンチスタイルって、ナニ?[おとなの解釈]編

フレンチスタイル おとなの解釈

ライフスタイルやファッションの文脈で飛び交う「ある種の専門用語」。もっともらしく使ったり、「はいはい」と相槌ちを打ったり……その意味分かってます? じつは意味が非常に曖昧なコトバ、案外身の回りにゴロゴロ転がっているものです。意味を知らなくとも生きていけますが、知らなくていいことを知っておくのも大人の嗜みでしょ。ってことで、ワンワードを深掘りし、その意味を明らかにしていく本連載。お題は、【フレンチスタイル】。バスクシャツさえあればそれっぽく見えるんでない?と思っているなら要注意。そんなに表面的なもんじゃないですからね!

前編「フレンチスタイルって、ナニ?[基礎の理解]」はこちら

教えてくれた方は…
現代の“フレンチ服”の旗手

Profile
オーベルジュ デザイナー 小林 学さん

[オーベルジュ]デザイナー

小林 学さん

1966年生まれ。1998年に「スロウガン」、2018年に「オーベルジュ」をスタートさせる。フレンチファッションの分析&製作のスペシャリストであり、深淵まで服を語るYouTubeチャンネルも人気。

「フレンチスタイルはいわばパリ式カルチャーMIX!」

[おとなの解釈]
【フレンチスタイル】とは……

米アイビー、英トラ、伊カジと違い、具体性がない。その曖昧さが転じて、「遊び」として滲むスタイル

[Q]フレンチ=ミリタリーの印象もあるんだけど?
[A]ピエール・フルニエ氏の功績が大きいでしょう

「グローブ」にはじまり「エミスフェール」、「アナトミカ」と、世界に名だたるショップを次々手掛けてきたピエール・フルニエ氏は、ミリタリーファッションにも精通する人物。世界各国から集めた軍放出品を店で扱い、審美眼を慕う世界中の洒落者がその服に身を包みました。ちなみにフランスの軍モノには名品が多く、「M-47」フィールドカーゴパンツはその代表格です。

フレンチスタイルを語るうえで外せないキーパーソン

ピエール・フルニエ

世界の名品を集めたセレクトショップの草分け「グローブ」、「エミスフェール」を立ち上げ、パリ流ミックススタイルを広く知らしめたピエール・フルニエ。

[ハミ出し解説]M-47
 

M-47フィールドカーゴパンツ

 
かのマルタン・マルジェラも注目。裏まで美しいフランスの服作りを見せるべく、わざと裏返しにリメイクした逸話も有名なフランス軍パン。1947年〜50年代のツイル仕様は前期型、60年代のヘリンボーン仕様のものは後期型と呼ばれ区別される。

[Q]洒落者「ゲンズブール」。一体何者なんですか?
[A]とにかく多くの浮名を流した希代のモテ男です

フランスのファッションアイコンとして今なお愛されるセルジュ・ゲンズブール(1928-1991)ですが、何者かいまいちわからないという人も多いかと。

事実を並べれば、彼はシンガーソングライターであり俳優であり、映画も監督するし小説も書くマルチクリエイター。でも人々の記憶により強く焼き付いているのは、楽曲を提供したブリジット・バルドーとの不倫や、ジェーン・バーキンとの事実婚(シャルロット・ゲンズブールを授かるも後に別れる)といった、数多のモテエピソードかもしれません。

そんなイメージのとおり、彼のスタイルには匂い立つ“色気”がありました。シャツの袖口はクルクルッとめくり、胸元にいたっては、ときに第4ボタンまで開けることも──。計算ずくの無造作を自然にこなすのが、ゲンズブールのスゴいところでありエロいところなんですね。

エロのついでに。「フレンチキス」という言葉がありますが、フレンチと付くだけで、エロい言葉がお洒落な響きになるのは不思議ですよねー(笑)。

フレンチスタイルを語るうえで外せないキーパーソン

セルジュ・ゲンズブール

昭和でいうセックスシンボルとして崇められたセルジュ・ゲンズブール。フランス・ギャルのヒット曲「夢見るシャンソン人形」は、彼の作詞作曲。

[ハミ出し解説]シャルロット・ゲンズブール
 
1971年、フランス人の父と、イギリス人の母の間に生まれる。両親の才を継いだ彼女は、13歳の思春期女子のひと夏を描いた映画「なまいきシャルロット」で主人公を好演。映画で見せたオーバーサイズのバスクシャツの着こなしは、服好きの語り草になっている。
 
 
[ハミ出し解説]フレンチキス
 
「フレンチが付くと何でもお洒落に聞こえる説」を裏付けるように、意味を間違えている御仁の多いワードがフレンチキス。一応復習すると、軽くチュッ♡とするのがバードキスで、フレンチキスはごりごりのディープキス。おねだりは自己責任で。

[Q]何度考えても「エスプリ」って何かわかんないです
[A]そりゃ当然。エスプリは精神そのものなんだから

フランスっぽさを言い表す際によく用いられる「エスプリ」ってワード。メディアの自戒も籠めてぶっちゃけますが、ちゃんと意味をわかって使っている人は稀なんじゃないかと……。おそらく我々の多くが信じている訳語は「ヒネり」や「ウィット」だと思いますが、本来の意味は英語でいう「スピリット」。つまりエスプリとは“フランス人の精神”ということになります。

そりゃ一体何ぞや?といえば、理解がまた難しい(汗)。喩えるなら、皆が黒というところを白だ!とあえてヒネくれる、反骨に粋を見る精神とでもいいましょうか、そこには、右に倣えを良しとしない彼らの美学が見え隠れします。……うーん、日本人が理解しきれない理由の一端がわかったような!?

前編「[基礎の理解]」と当記事「おとなの解釈」を整理してみた
「フレンチスタイル」って3つに分かれるんじゃない? 図解&必修用語

さまざまなスタイルが混ざり合って形作られるのがフレンチスタイルの骨子ですが、その成り立ちや傾向から、3つに分けることができるかと。Beginの定義する3タイプがこちら!

FRENCH STYLE[1]
フレンチ・アイビー

クラシックMIX 品格フレンチ

フレンチ・アイビー ポール・ウェラー

フレンチアイビーのお手本はやっぱりこの人、ポール・ウェラーさん(英国人ですけど)。紺ブレにタッセルローファーといえば本家アイビー(①)でも定番ですが、ここに白パンを持ってくるあたりにフレンチが薫ります。パステルピンク(②)のニットの肩掛け、水玉模様のチーフにもパシッとエスプリが効いてるでしょ? 余談ですが、フレンチアイビーの定番とされたものの中にM-65(③)ミリタリージャケットがあり、あえてのベージュがフレンチとされていました。チェックパンツやモンクストラップ靴も定番。やっぱ、ヒネりの効いた選択がフレンチの肝なのかな。

[必修用語]
①本家アイビー
アメリカ東部の名門大学生の服装をルーツとする始まりのアイビー。1950〜60年代に掛けて大流行した。
 
②パステルピンク
豊かな色彩も、フレンチアイビーの特徴。ニットやポロシャツで華やかな色を添えるのが定石だった。
 
③M-65
オリーブのそれが王道だが、フレンチ流はライトベージュ。ポリエステル混が正統とされていたとか。

FRENCH STYLE[2]
ピエール・フレンチ

欧米ヴィンテージ薫る 無骨フレンチ

ピエール・フルニエ氏

ワークやミリタリーに由来する無骨なウェアを、エレガントに着こなすのもフレンチ流儀。これの粋を世界に広めた第一人者といえば、名店エミスフェール(④)の主であったピエール・フルニエ氏でしょう。イラストで彼が着ているのはUSネイビー(⑤)のピーコートをベースにしたもの。大ぶりの襟やボタンに迫力があふれますが、シルエットやドレープには品のよさが薫ります。ボタンを留めて襟を立てて着る着方にも、イズムが感じられます。ボトムスにはデニムを選び、そして足元にはオールデン(⑥)のブーツを合わす。無骨と上品のバランスをマネしたいものです。

[必修用語]
④エミスフェール
1979年、パリ16区に開店したセレクト店で、店名は北半球を意味。日本のバイヤーの聖地でもあった。
 
⑤USネイビー
アメリカ海軍。1920年代に支給されていたピーコートはフロント10ボタンで、大きな衿が特徴だった。
 
⑥オールデン
何を隠そうモディファイドラストのオールデンをファッションアイテムへ昇華したのはピエール氏!

FRENCH STYLE[3]
ゲンズブール・フレンチ

強烈な唯我独尊 色気フレンチ

セルジュ・ゲンズブール

オレ式でとにかく自由に着こなしを楽しむのも、フレンチ流。ジェーン・バーキン(⑦)ら多くの美女と浮名を流した色男、セルジュ・ゲンズブールが見せた装いには、とりわけ強烈な唯我独尊が感じられました。イラストで着ているのは、小ぶりな衿が特徴的なウエスタンシャツ。特定できる服では、OG-107(⑧)も好んで着たようです。ボトムスにはトーンの近いパンツ。そして足元には必殺のレペット(⑨)! こうしたチョイスや合わせの妙もさること、大きくはだけた胸や袖まくりの塩梅など、一見無造作な着方の随所に色気が漂うのがゲンズブールの真骨頂です。

[必修用語]
⑦ジェーン・バーキン
イギリスの女優。飛行機に乗った際にエルメス社長がたまたま隣席。会話から誕生したのが、バーキン。
 
⑧OG-107
USアーミーの軍服で、セルジュはユーティリティシャツを粋に着こなした。ジョン・レノンも愛用。
 
⑨必殺のレペット
ゲンズブールといえば、仏のダンスシューズブランド、レペットの“ジジ”。スーツにも合わせていた。

 


[ビギン2024年6月号の記事を再構成]写真/上野 敦(プルミエジュアン) 文/秦 大輔 スタイリング/武内雅英 イラスト/TOMOYA

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