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密にニヤリ 実際なぁに? そのコトバ[おとなの嗜み]

フレンチスタイルって、ナニ?[基礎の理解]編

ライフスタイルやファッションの文脈で飛び交う「ある種の専門用語」。もっともらしく使ったり、「はいはい」と相槌ちを打ったり……その意味分かってます? じつは意味が非常に曖昧なコトバ、案外身の回りにゴロゴロ転がっているものです。意味を知らなくとも生きていけますが、知らなくていいことを知っておくのも大人の嗜みでしょ。ってことで、ワンワードを深掘りし、その意味を明らかにしていく本連載。お題は、【フレンチスタイル】。バスクシャツさえあればそれっぽく見えるんでない?と思っているなら要注意。そんなに表面的なもんじゃないですからね!

教えてくれた方は…
現代の“フレンチ服”の旗手

Profile
オーベルジュ デザイナー 小林 学さん

[オーベルジュ]デザイナー

小林 学さん

1966年生まれ。1998年に「スロウガン」、2018年に「オーベルジュ」をスタートさせる。フレンチファッションの分析&製作のスペシャリストであり、深淵まで服を語るYouTubeチャンネルも人気。

「フレンチスタイルはいわばパリ式カルチャーMIX!」

[基礎の理解]
【フレンチスタイル】とは……

80年代、バブル期の日本で服好き業界人が“パリへの憧れ”を持って描いた、お洒落の方程式

おとなの嗜み フレンチスタイル

[基礎]フレンチスタイルとはフランス人伝統のスタイルではない!?

僕らがフランス人の服と聞いて最初に思い浮かぶステレオタイプは、バスクシャツではないでしょうか。バスク地方の船乗りが着ていた衣服が出自ですし、フランス海軍の制服にも採用されていたので、フレンチであることに間違いはないのですが、実際にパリの街を歩くと誰も着ていない……というのはよく言われる話。

ずばり、日本人が思い描く「フレンチスタイル」には、ファンタジーを含む解釈が多分にあるのです。80年代に一世を風靡した「フレンチアイビー」も、じつは日本の服好きたちがフレンチを読み解いた、いわば“憧れ”のフィルターを通して描いたお洒落の模範。その、独特なウィットの効いたMIX術が、今また洒落者に注目されています。

[ハミ出し解説]バスクシャツ
 

バスクシャツ

 
フランスとスペインに跨がるバスク地方に端を発する、ボーダー柄が特徴のカットソー。起源は16世紀に遡り、1858年にフランス海軍が制服に採用した。ちなみにバスクシャツは日本の呼称で、本国のセントジェームスは、「ブルトンストライプシャツ」と呼んでいる。

[Q]フレンチアイビーって、よく聞くんですが……?
[A]フランス的MIXをした80年代版トラッドです

50〜60年代アメリカのエリート学生に端を発するアイビー、頑丈なアウトドアウェアやサープラス品が流行した70年代のヘヴィデューティと、高度成長期の日本のファッション潮流はアメリカが模範でした。

しかし、古今東西のファッショニスタは常に新しいそれを求めるもの。1964年に創刊された雑誌「平凡パンチ」、1975年の「大人の一流品大図鑑」、そして1979年の「エルメス大図鑑」といった媒体でフランスの煌びやかな服飾文化が紹介され、日本人のフランスへの憧れがピークに達した80年代バブル期に入ると、セレクトショップのバイヤーたちは新たな装いの模範を見つけます。それが、件のフレンチアイビーでした。

スタイルアイコンの筆頭は、意外にもパンクバンド「ザ・ジャム」を経て「スタイル・カウンシル」を結成したイギリス人のミュージシャン、洒落者として名高いポール・ウェラーでした。

ジャム時代のエネルギーに満ちた汗臭い音楽性とは一転、スタイル・カウンシルのそれは、ジャズにソウル、ボサノヴァといった世界中の音楽をミックスした楽曲揃い。これがおとなで洒落ている!と注目され、さらにプロモーションの軸足をパリに置いたことから、フレンチの体現者=ポール・ウェラーのイメージが付いたのです。当時の彼のスタイルは、まさしくアイビーに通ずる落ち着きがあるとともに、パリ流のウィットを滲ませるものでした。

[ハミ出し解説]ポール・ウェラー
 

ポール・ウェラー

 
フレンチアイビーのお手本にして、モッズの神様。そしてサヴィルロウ仕立てのスーツを颯爽と着こなす、真の着巧者。彼に影響を受けた服飾業界人は多く、中には敬意を表して髪型を真似るコアファンも。なお、デデデンッ!と始まるスタイル・カウンシルの名曲「シャウト・トゥ・ザ・トップ」は、懐かしの情報番組「とくダネ!」のOPテーマだった。

またBGBCの中心地、パリ16区の「エミスフェール」が扱ったアメリカンアイテムもフレンチアイビーのお手本とされました。フレンチなのにアメリカ?という問の回答は、次の設問で。

[ハミ出し解説]BGBC(ベーセーベージェー)
 

BGBC ベーセーベージェー

 
「ボンシック・ボンジャンル」の略語で、パリ15区や16区の高級住宅街に暮らす「フランス上流階級のシックな暮らし」を意味する。フレンチアイビーが台頭した80年代半ばにこの言葉が流行し、“上流階級ぶり方”の解説本まで発刊された。昨今、再びそのスタイルが注目されている。

[Q]具体的にどんな格好がフレンチアイビーなの?
[A]意外やアメリカンなそれが主役でした

フレンチアイビーと聞いて思い浮かぶスタイルの多くに、前述のポール・ウェラーの装いがあります。ブレザーにニットを肩掛け、デニムは細身で、ちょっと折り返して白ソックスを覗かせる……。アイビーにヒネりを効かせたそのスタイリングは、日本のセレクトショップやメディアによって最新の“着こなしのルール”とされました。

フレンチアイビーの定番にアメリカの服が多いのは、後述するピエール・フルニエ氏が開いた名店「エミスフェール」の品揃えも影響しています。何せオルテガベストまで定番とされたんですから! つまりフレンチアイビーの神髄は、「わかってる」着こなしであり「遊び心」のあるMIXってこと。

[ハミ出し解説]着こなしのルール
 
アメリカのアイビーにはない、意外な合わせや着崩しがフレンチアイビーの真骨頂なのだが、そこにもルールを見出すのが服好きのサガ。フレンチっぽいステンカラーコートはベージュでなくオイスターホワイト!だとか、ジーンズの裾は軽ーく折り返すだとか、いろいろな定石がありました。

後編に続く…
「フレンチスタイルって、ナニ? [大人の解釈]」はこちら


[ビギン2024年6月号の記事を再構成]写真/上野 敦(プルミエジュアン) 文/秦 大輔 スタイリング/武内雅英 イラスト/TOMOYA

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