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ループウィラーの100年起毛の工場に潜入してきた【後編】

100年前のアンティーク米式起毛機をフルレストアし、スウェット創成期の起毛を現代に甦らせた豊染工。100年起毛と名付けられたこの加工は、ループウィラー代表の鈴木 諭さんが一目惚れし新製品に採用するなど、オーソリティも納得の完成度となりました。詳細は前回の記事をご覧いただくとして、豊染工にはそれ以外にもオンリーワンな技術が存在します。今回は、同社の本領である加工にフォーカス。他工場では出せないクラシックなテイストを再現し、ヴィンテージの再現を得意とするブランドからの信頼も厚い(ここだけの話、本家の復刻作にも携わっているというウワサの)加工ワザをレポートします。

言ってみれば吊り編み機の”染色版”&”乾燥版”

豊染工の叡智が詰まった工場内。1960年代の機械が整備され、バリバリ動いています。

日本のアパレル産業は原料調達・紡績・生地作り・染め・縫製etc.とプロセスが細かく分かれており、専門性を向上させることで、高品質な服が作られています。豊染工が担うのは染色整理加工と呼ばれる工程で、ニッターが編んだ生地を預かり、糊や油分を洗い落とした後(精錬)、指定された色に染め上げ(染色)、柔軟・起毛・プレスなどの(仕上げ加工)を行っています。

豊染工3代目で専務の田中大幹。Beginと和歌山県ニット工業組合有志との共同プロジェクト「和歌山大莫小」の代表も務めています。

豊染工の名は初代・田中豊さんに由来します。戦後すぐに創業した枷染め(壷を使った伝統的な糸染技法)をルーツとし、1970年代に現在の場所へ工場を移転、生地染にシフトしました。その際、導入されたマシンが現役で稼働しており、当時と同じ風合いを生み出しています。

現役で稼働する今では超希少となったウィンス染色機。生地はループ状になっており、ロールをぐるぐると回転させ、染液の入った浴槽に繰り返し浸して染めていきます。

工場に足を踏み入れて目に飛び込んでくるのはウィンスという染色機です。スウェットには吊り編み機という古いマシンが存在します。糸や生地にかかるテンションを最低限に抑えゆっくり編むことでふっくら柔らかい生地になりますが、ウィンスはその染色版。一般的な染色工場で使われている液流機が長いパイプの中で反物と染液を高圧循環させて染め上げるのに対し、ウィンスは染料を入れた溶液槽の上にリールがあり、生地をかけてぐるぐる回すだけ。シンプルな分、余計なテンションが掛からず、生地本来の風合いを保ったまま染められます。

豊染工にしかない蒸気式タンブラー乾燥機。仕上がりのソフトさが激変します。

染色した生地は仕上げ加工をするためタンブラー乾燥機に運ばれます。家庭やコインランドリーで目にするものと似ていますが、豊染工では熱源に蒸気を使用。「スチームトースターでパンがしっとり焼き上げられるのと同じ理屈です」と田中さん。乾かしながら程よく水分が入るので、通常の電気式よりもフワフワに仕上がります。柔らかく乾燥させるには湿度が大事な要素。この規模で蒸気式タンブラーが残るのはここだけなんだそう。

工場には熱源の配管が張り巡らされていて時折り蒸気が排出されています。

ヴィンテージの色落ち感を”洗い”ではなく”染色”で表現

染色・乾燥・起毛と世界的にも希少なマシンを揃える豊染工ですが、じつは独自の新たな技法も生み出しています。

「ピールオフ」は耐久性に優れた反応染料で経年の色落ち・アタリを表現する染色法。古着好きな3代目の田中大幹さんが、色移りに強くヴィンテージ感が長持ちする加工を目指して開発しました。

ピールオフ加工された豊染工のファクトリーブランドFEEL…Y(フィールアンドワイ)のクルースウェット(1万9580円)。ボディとリブの色の差は、製品の後加工ではなく、生地染めによって退色した風合いを表現している証。

ピールオフ加工を施したスウェットは自社ブランド「FEEL…Y(フィールアンドワイ)」からリリースされています。現在のところオンライン販売はなく、工場に併設するショップで販売中。「今までB to Bの仕事が中心だったので、お客さんに直接来てもらって感想を聞けたらと思ってます」と田中さん。同店に訪れて、豊染工の技術や思いだけでなく、ニットの聖地・和歌山の息吹を感じてみてはいかがでしょうか?


FEEL…Y
豊染工に併設されたファクトリーショップ「FEEL…Y(フィールアンドワイ)」。倉庫をリノベーションした空間に自社ブランドのアイテム、吊り編み機を使ったスウェットやTシャツに、田中さんが開発したヴィンテージ加工「ピールオフ加工」を施したアイテムが並ぶ。前回紹介した100年起毛の製品は秋以降に並ぶ予定だ。

 

(問)FEEL…Y
公式インスタグラム https://www.instagram.com/feel.y0768

※表示価格は税込みです


写真/中島真美 文/森田哲徳

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