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ループウィラーの100年起毛の工場に潜入してきた

昨秋リリースされたループウィラーの100年起毛スウェットをご存知でしょうか?(詳しくはコチラ) ループウィラーは”スウェットの正統”を標榜し、希少な吊り編みが生み出す立体感ある裏毛を特徴とします。一般的に裏毛とは、裏面がループ状に編み込まれたような組織で、心地よい肌触りと保温性に優れます。このループを掻いて毛羽立たせ、高い保温性を持たせた生地を裏起毛と呼びます。スウェット好きは裏毛派が多数を占め、ループウィラーも生地本来の風合いを伝えるため、基本的に起毛加工した製品はリリースしてきませんでした。そんな慣例を覆したのが、和歌山県和歌山市に居を構える豊染工の「100年起毛」との出会いでした。同社が蘇らせた100年前の起毛機による、フワフワモコモコとした起毛に、ループウィラー代表の鈴木さんが一目惚れ。即製品化が決まったと言います。

豊染工がある和歌山市の137号線沿いにはメリヤスやニット工場が集まる。

今回、このウワサの100年起毛機が本格稼働できる体制が整ったとの情報を得、取材班はその全貌を明らかにすべく和歌山県の豊染工に向かいました。

豊染工は生地の染色・整理工場で約80年の歴史を持ちます。100年前の起毛機復活の立役者である田中専務に話を伺いました。

豊染工の田中専務は3代目で、和歌山ニット工業組合とBeginによる和歌山ニットを世界に発信するプロフェクト「和歌山大莫小(わかやまだいばくしょう)」の代表も務める。

「この機械は、もともと大阪の岸和田にあったものなんです。阪南ニットという会社で、ウチから起毛加工のお願いをしていました。いわゆる外注先ですね。小学校の頃は親父の後に付いてよく遊びに行ってたんです。大きな工場で起毛機も10台くらい動いてたのを覚えてます」

レストア前の起毛機。豊染工の敷地内で約15年間眠っていた。

阪南ニットは生地を染める前に起毛を行う「先起毛」という方法を得意としていました。

「『先起毛』は起毛後に染色や整理(仕上げ)加工を行うのでフワフワ感が高まります。それに対して『後起毛』という方法があって、こちらはソーピングなどを経た柔らかい生地に起毛処理を行うので毛が立ちやすいんですね。風合いは劣りますが、効率が良く加工単価も安いので大量生産時代に主流となりました。先起毛をメインにしていた阪南ニットは規模を縮小し、20数年前に岸和田の工場を畳んで、豊染工に来られたんです。2台の起毛機をうちの工場に運び入れ、7〜8年間ほどやられて引退されました」

豊染工は起毛のオーダーを受けると風合いの良さを優先して先起毛で応じていました。阪南ニットがなくなり、加工先が変わったところ、多くの取引先から以前の起毛に戻せないのか?と問い合わせが来たといいます。

「それで、動かさないといけないのかなと思ったんです。機械もそのまま残ってるし『やるなら直さないとあかんぞ』って言われてたんで、阪南ニットの社長もどこかでこうなることを期待していたのかもしれません」

風綿が積もるギア。当時はこの歯車を組み替えることでスピードを調整していたそう。

それから時間が経ち、コロナ禍で事業再構築の必要を感じた田中専務は資金を調達。社長であるお父さんを説得し、起毛機の復活に取り掛かります。

「日本に唯一の起毛機メーカーが和歌山にあってレストアをお願いしました。そこの工場長が85歳で、中学校を卒業してからこの業界一筋だけど、起毛機に記された『NANWA IRON WORKS』という名前をご存知なかった。それで80〜100年位前に作られた機械じゃないかと。残されていたのは本体だけ、もちろん設計図もないので、パーツごとにバラバラに分解して持ち帰ってもらい、図面を起こすことから始まりました。以前の仕上がりが再現できるよう起毛の心臓部は補修以外絶対触らないでほしい。そう伝えた上で、スピードの調整のためにいちいち歯車を取り換える訳にはいかないので、それ以外の部分はある程度使いやすいようにカスタムしてもらいました。足りない部品は一からオーダーメイドでパーツを作らなければならず完成に1年程度かかりました」

現代に復活した米式起毛機。インバーターが入り操作盤でスピードが制御できるように。
起毛の心臓部。生地と針が接する機構は以前のまま。ボディに刻印されたNANWA IRON WORKSのロゴもそのまま残された。

起毛機は、針で生地表面の繊維を掻き出すことで起毛を作り出します。針布を巻き付けたロールやシリンダの回転様式、針の形状で、英式、米式、仏式、独式に分けられ、素材によって使われる機械が決まっています。

ローラーについた細かい針が生地のループを掻き出して起毛を作る。針は消耗品だが、元の針の形状を完全再現したものをオーダー。1回では起毛が薄いので、数回通す。
起毛機を裏側から撮影。削り取られたコットンが吹雪のごとく舞い散る。

職人さんが調整しながら起毛を行います。最新の起毛器に比べると倍以上の時間がかかると言います。

「これは米式で、裏毛が得意で先起毛に適しているんです。あともう一つ大きな特徴は生地を開反せず丸胴状態で加工することで、起毛にネップやループを残すところです。ぼくたちは『フワモコ』と表現していますが、これをループウィラーの鈴木さんにも気に入っていただけました」

左が100年起毛。右の一般的な起毛に比べて、ループがほんのり残っているのがわかる。この差がフワモコ触感につながるのだと言う。
丸編みを筒状のまま起毛をかけるため、どうしても脇部分に起毛が少ない”耳”ができる。100年起毛の証でもある。

ループとネップがランダムに混じり合った風合いは抜群で、起毛の肌触りが苦手という方も一度手にとってみて欲しい。聞くところによると、チャンピオンのヴィンテージスウェットにも同じ米式起毛機が使われていたそうで、最もオーセンティックなスウェットブランドであるループウィラーとの出会いに必然だったのかもしれません。今年の秋冬に発売されるループウィラー✕ビームス プラスのコラボアイテムにも採用が決定。ループウィラーの第2弾も控えているのだとか。豊染工の新たな武器として今後の広がりを期待させる100年起毛。裏毛とも従来の裏起毛とも違う、唯一無二の着心地は秋まで楽しみにお待ちください。


FEEL…Y
豊染工に併設されたファクトリーショップ「FEEL…Y(フィールアンドワイ)」。倉庫をリノベーションした空間に自社ブランドのアイテム、吊り編み機を使ったスウェットやTシャツに、田中さんが開発したヴィンテージ加工「ピールオフ加工」を施したアイテムが並ぶ。100年起毛の製品は秋以降に並ぶ予定だ。

 

(問)FEEL…Y
公式インスタグラム https://www.instagram.com/feel.y0768


写真/中島真美 文/森田哲徳

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