ブロッコリー農家とモンベルが服作りをするワケ

ファッション業界のサスティナブルの種を紹介していく、連載企画「SDSEEDs(エスディーシーズ)」。持続可能な社会を目指すうえで、食料の多くを海外に頼る日本にとっては、食料自給率の向上が大きな課題となっています。ただ食料自給率を支える第一次産業の農業は、かねてから労働力の減退が危惧されてきました。
そんな業界の一助になればと、開発されたのがモンベルのフィールドウエア。実際に「快適で仕事が捗る」と従事者から重宝されているそうで、モンベルの黒瀬さんと、使用している農家の大塚なえやさんにリアルな声を聞いてきました。
教えてくれたのは……
黒瀬美保さん
学生時代にキャンプとカヤックに夢中だったことからモンベルに入社。農林水産省の農業女子プロジェクトに立ち上げから参加し、全国の農家と連絡を取り合う。「今も継続的に意見交換を行い、フィールドウエアに活かしています」
農作業用にわざわざいい服を買うのか?
第一次産業全体にいえることですが、農業では従事者の高齢化や後継者不足が浮き彫りになっています。こうした現状を改善するため、近年は科学技術の導入による負担軽減や、就農希望者への雇用を生む働きが増えてきました。
2013年に発足した農林水産省による「農業女子プロジェクト」もそうした取り組みの一つ。これは女性農業者の知恵を企業とのビジネスに結び付けることで、新たな商品や付加価値ある生産物を生む。農業で活躍する女性の姿を広く発信する取り組みです。モンベルは発足から同プロジェクトに参画しており、その第一期から担当しているのが広報の黒瀬さんです。
「モンベルは全国各地に直営店があり、お客様と『次はどちらの山へ行かれますか?』といったコミュニケーションを取っています。そのなかで’11年、北海道・東川のお店で『山でなく農業でアウトドアウエアを使う』という農家のお客様がいらっしゃいました。それまでにもモンベルウェアを農業で着用してくれている方もいましたが、お客様の話を聞いていると、使う場所は同じ屋外でも、アウトドアアクティビティの時とは違ったニーズがあることが見えてきた。それが農業用の『フィールドウエア』作りのきっかけになりました」
「ただモンベルは農業のプロではありません。そこで東川の農家さんにお願いし、企画スタッフが通って一緒に作業をさせていただき、サンプルを農家さんにも着てもらって、テストを繰り返しました。そうして’13年にフィールドウエアの第一弾として、東川でテストを重ねたレインジャケット、パンツとビブ(オーバーオール)をリリース。同時期に発足した農業女子プロジェクトへの参画も決まり、その後皆さんの声や要望を取り入れた共同開発商品としてパーカも発売しました」
では具体的に、アウトドアウエアとフィールドウエアの機能や作りの違いはどういったところなのでしょうか?
「レインジャケットでいえば、防水透湿性は共通ですが、アウトドアでは軽さが重要。1g単位で追求しています。逆に農業用は軽さよりも、毎日の作業による摩耗に耐えるタフさが重要。例えば、コンテナを運ぶ時って前身にかなりの負担が掛かるので、アウトドアでは削ぎ落とされるような、ファスナーを保護する前立てが付いたり、他にも前屈みでの作業中に雨が顔へ滴りにくいようフードのひさしが長めになっていたりなど、細部が違っています」
では実際、どんな活躍ぶりなのか!? 以下では、現場の農家さんの声や要望を直撃リポートしていきます!
実際どんな要望があるの?
農家さんに聞き取りしてみた!
教えてくれたのは……
栃木県栃木市で野菜の苗とブロッコリーなどの露地野菜を生産する「大塚なえや」のご夫婦。文江さんは2017年に農業女子プロジェクトに参加。当時からモンベルとフィールドウエアの開発に取り組んでいる。今もモンベルから意見を求められることが多いんだそう。
周りでも真似る農家が続々!
おかげで仲も良くなれた♪
今回取材した「大塚なえや」のご夫婦は登山が趣味で、もともとモンベルのアウトドアウエアを愛用。それを農作業時に活用していたそうです。
機能性のメリットもありましたが佳延さん曰く、「昔、子どもが友達に『君のお父さんが農作業の休憩でたばこ吸ってたよ』と言われたそう。でも僕、たばこは吸いません(笑)。要は人違いで、農家の人って同じように見えるんです。農家として人に見られてるという意識改革も兼ね、私たちはモンベルのカラフルなシェルを着るようになりました。それから妻が農業女子プロジェクトに参加。モンベルを農作業で着ていることから、’17年からフィールドウエア・プロジェクトに携わっています」

以来、フィールドウェアを農作業着として使うようになった二人。文江さんは農業女子との共同開発商品であるパーカなどを、佳延さんは「私はレインジャケットやビブを使うようになりました。それまで使っていた作業着や雨合羽はあくまで消耗品という認識。ただモンベルの防水透湿性を一度味わったら、もう戻れなくなりましたね。以前の作業着より値は張れど快適さが段違いですから」。


文江さんは「かわいいカラーリングはもちろん、結んだ髪を出せるフードや手の日焼けを防ぐ袖口など作りも細かい。女性向けの気の利いたウエアはありがたいです」と話します。


「かつてはシーズンごとに買い替えるものもあったと考えれば、決して高い買い物じゃないよね」と続ける佳延さん。モンベルは店舗でのリペア対応もありがたいのだと絶賛します。
モンベルは全国に店舗がたくさんあることも利点だそうで、「近くのお店に自分で補修するリペアキットも売ってますからね。そういえば他の農家さんから『その服なに?』と興味を持たれ、説明するとみんなお店に買いに行って着るようになっていますよ(笑)」(文江さん)。


「レインジャケットのオレンジのようなカラフルなアクセントも好評ですね。おそらくアウトドアウエアと違い生産数が少ないのに、ブーツをはじめ、いろんな農業向け製品を作ってくれて、農家の要望も聞いてくれる。しかもリーズナブル。だからすごく助かってますね」(佳延さん)。「次は温かいけど、透湿性のある手袋があったらうれしいです♪」(文江さん)
農家じゃなくても着てみてほしい!
大塚さん愛用アイテム3選
①表地の独自素材は耐摩耗性3倍以上!防水生地にはゴア素材を使用







フィールド レインジャケット Men’s 2万2000円
軽く防水透湿機能をもつゴアテックス パックライトを使った2レイヤーシェル。表地には一般的なナイロンの3倍以上の耐摩耗性がある、モンベル独自のナイロンを使用。雨天で視界を確保するフードの長めのひさしも農業向けの特徴だ。「デザインの良さも仕事へのモチベーションが上がります!」(佳延さん)。
②気が利きまくり! 女性思いなUVカットパーカ








フィールド クールパーカ Women’s 7700円
お洒落で快適な女性用作業着を作るべく、農業女子プロジェクトで誕生。通気性とはっ水加工、UVカット、消臭機能を備えた生地を使い、屈んでも背中が出にくいロングテールに。結んだ髪を背面から出せるスリット付きフードも好評。「アームのかわいいロゴも農業女子の要望でした」(文江さん)。
③手放せないと大塚さん絶賛! タフ&ラクな裾割れエプロン




フィールド エプロン 7370円
素材はコットンライクでナチュラルな撥水ナイロン。6つあるポケットに収穫物や小物を個別に収納できるうえ、肩掛け式なので首が疲れにくいのもポイント。「裾中央にスリットが入っていてしゃがみやすく、膝下丈だからエプロン越しに膝をついてパンツが汚れないのも便利なんですよね」(文江さん)。
農業に限らず欲しい人がいたから作った
農業には野菜や米の栽培だけでなく、酪農や畜産もあります。フィールドウエアを使ったある酪農家からモンベルにこんな声が。黒瀬さんによると「それはツナギだったのですが、当初の物はベルトが機械に巻き込まれる可能性があって怖いというもの。その後、ベルトが中に隠れる仕様に改良しました。大塚さんら農業女子もそうですが、フィールドウエアにはとことん、そうした声をフィードバックしています」
次第に、フィールドウエアは林業、漁業関係者の間でも評判になります。
「農業向けと同じく、きっかけはお客様の声。マーケティングありきではなく、欲しい人がいたから作りました」
農業だけじゃない!
モンベルフィールドウェアのどこがすごいでSHOW?
一見普通のワークパンツですが……
チェーンソーでも切れない!
プロテクション ロガーパンツ 2万6400円
「海外のロガーパンツは日本人体型に合わない。裾上げもできない」という声から誕生。万一の際も、前面に内蔵した特殊保護剤が絡み付くことでチェーンソーの刃が停止するという仕組み。モンベルの登山パンツがベースなので山でも非常に歩きやすい。
何を入れるのかというと……
苗木専用リュック!
ロガー プランティングパック 1万7380円
もとは苗木植えに籠を背負っていたが、モンベルの登山バッグの技術を活かしてバックパックを作製。両脇に取り出し口があり、スムーズに苗木を取り出せる。体を包むよう密着するハーネス、アルミフレーム搭載で背負いやすい。W38×H56×D25㎝。
ミニマルなレインウェアにじつは……
水の浸入を防ぐディテール満載
フィッシャーマン タフ ジャケット 2万2000円
モンベル独自の防水透湿素材、ドライテックを使い、さらに防汚膜を加えた4レイヤー。防汚膜により魚の血などが付着しても落ちやすい。それまでゴム引きのビブやウェアを使っていた漁業関係者が、軽さと優れた透湿性に歓喜したそう! 水の浸入を防ぐインナーカフやスマホを守る内ポケットも完備。
一つ一つの要望に応えていったら、林業や漁業も支える存在に。それどころか、今ではキャンパーや釣り好きにまでフィールドウエアの認知が拡大。エプロンやパーカは着たまま納品やコンビニにも行けるデザイン性の高さから、マルシェや街で働く人にも好評を博しています。
またビギン目線でも、ゴアでこのクオリティのレインジャケットって、他所だと下手すりゃ倍額かと。そして何より、アウトドアとワークの両要素を1着で堪能できる満足感、現在進行形のプロユースってロマンが堪らない♪ じつは……と語れるテックウエアとして一見の価値ありです!
フィールドウエアでは全国の第一次産業従事者の声を反映してきました。一方その頃、モンベルと提携する地方の方々が生産する食材や施設の産品を産直販売するオンラインショップ「フレンドマーケット」を別途スタート。モンベルクラブ会員なら3%のポイントが付き、地方のPR、地域振興につながる取り組みも行っています。
全国から産地直送!
フレンドマーケットとは?
モンベルの提携施設「フレンドショップ」は全国に2000ヶ所以上。モンベルクラブ会員ならその選りすぐりの産品を産地直送する「フレンドマーケット」でもお得にショッピングを楽しめる。SDGs的な掘り出しモノも豊富です!
レアな魚を手軽に味わえる
福井県はもと加工販売所の若狭湾・地魚4種セット 3326円
福井県高浜町、若狭湾で水揚げされた新鮮な低利用魚を、調理しやすく加工したおかずセット。それぞれおいしく味付けされていて、魚種がバラエティ豊かなのも嬉しい。(はもと加工販売所)
間引かれたブランド杉を活用
徳島県那賀ウッドのボタニカルカトラリーセット 2170円
徳島県那賀町のブランド杉「木頭杉」の、間伐採などの未利用材を使ったカトラリー。風合い豊かな質感と杉の香りも楽しめる。軽く丈夫で、アウトドアシーンにも最適だ。(那賀ウッド)
鹿の捕獲から精肉まで町内で
兵庫県TASHIKAの無添加ドッグフード 2970円
兵庫県多可町にて田畑を荒らす有害鳥獣被害で捕獲され、本来は廃棄となる鹿肉を有効利用。鹿肉60%に野菜を40%、ワンちゃんが美味しく感じる味に配合している。1㎏。(TASHIKA)
生きる力を育む、自然環境保全意識の向上、など7つの壮大なミッションを創業時から掲げているモンベル。「第一次産業を元気にしたい」という、アウトドアの領域を超えた当プロジェクトにも本気で取り組み、親身なモノ作りを続ける前のめりな姿勢に、これからの時代、ますます目が離せません。
問い合わせ先/モンベル・カスタマー・サービス☎06-6536-5740
https://www.montbell.jp/
写真/丸益功紀(BOIL) 文/桐田政隆