文房具(グ)ルメ
箸置きならぬ、ペン置き
とつぜんだが、あなたは普段から家で箸置きを使っているだろうか。
お正月などの特別なときや、お客様をもてなすときには使っているけれど、普段からは使っていないかなぁ、という方が多いのではないだろうか。かくいう私も、その一人である。
箸置きの歴史は、おおよそ1400年前、聖徳太子の時代にまでさかのぼることができるという。まぎれもない、日本の伝統文化である。そんな大昔から現代にまで続いているということは、やはり箸置きを使うことで得られる利点がいろいろあるからではないだろうか。
まずはやっぱり、衛生面だろう。箸置きがなければ、箸を直接テーブルに置くことになるが、そうすると箸もテーブルも汚れてしまう。それを避けるために、食器の上に箸を置いてしまうと、これは厳密にいえば「渡し箸」というマナー違反だ。もちろん、自宅での普段の食事ならそこまでマナーを気にする必要はないけれど、見栄えがいいとはいえない。それに、お茶わんの上にのせていた箸に、ふとした拍子にソデを引っかけて、落っことしてしまうといったことも、往々にしてある。
そういったマイナーなトラブルを避けるためにも、箸置きを使うことで、箸の定位置を用意するのは大切なことなのだ。まあ、とはいっても、結局めんどうで置いていないんですが……。
そんなズボラな私でも、ペンには定位置を用意してある。それが、ゼブラの「ピタン」だ。「ピタン」はただのペンではない。箸置きならぬ“ペン置き”である「ノートホルダー」と、そこに置くための専用ペンがセットになったアイテムなのだ。
考えてみれば、ノートを使うとき、セットで絶対に必要になるのがペンなどの筆記具である。ノートはあるのにペンがないというのは、お弁当にお箸を入れ忘れるようなものだ。しかし、通常のノートにはペンを取り付けられるような場所がないから、仕方なくバラバラに持ち歩くことになる。これが、間違いのもとなのだ。
例えば、オフィスで自分の席から会議室へ移動する、なんてシーンを思い浮かべてみよう。小脇にかかえたパソコン。その上にはマウスやノートやペンを乗せている。絶妙なバランスで通路の移動はクリアできたとしても、ドアを開けたり、エレベーターのボタンを押したりしたときにバランスが崩れ、ペンを落としてしまった!なんてことは、よくあるのではないだろうか。
それを避けるために、ペンはペンケースなどに入れて、ノートとは別々に保管する。そうすると、今度はペンケースを忘れる。ペンケースを忘れないぞ!と気合いを入れると、次はノートを忘れる。そんな悲劇が起きるのは、「ノートとペンがバラバラ問題」が根底にあるからにほかならない。
つまり、筆記具メーカーであるゼブラが、この「ノートとペンがバラバラ問題」に責任をもって正面から向き合った結果、この世に生まれたのが「ピタン」なのである。
「ピタン」のノートホルダーにはマグネットが内蔵されていて、専用ペンを近づければピタリと定位置に収まる。軽く振ったくらいではびくともしないが、ペンを持って軽く横にずらせば、簡単に取り外すことができる。ノートの厚みによってペン本体がつかみにくい場合は、ノック部分のヒモをつまんで外すこともできるようになっている。
ノートホルダーは、クリップでノートの表紙や中表紙に取り付ける仕組みだ。クリップは、0.3mm〜1.0mmの厚みに対応するという。具体的な商品名でいえば、コクヨのキャンパスノートや、デルフォニックスのロルバーンなどの定番商品もこれに含まれる。一般的に販売されているノートであれば、かなり広い範囲のものに対応できる印象だ。
私が気に入っているのは、マルマンの小さいサイズのクロッキー帳、ポケットクロッキーとの組み合わせである。ページを開いた状態で机の上に出しっぱなしにして、ちょっと思いついたことをササッとメモしたりスケッチしたりするのに使っている。
メモ帳とペンをデスクの上に常に置いておくこと自体は以前からやっていたことだが、「ただ置いている」感が強く、見栄えがよくないことが気になっていた。また、ペンも何かの拍子にどこかへ転がっていってしまって、いざ書こうという段になって行方不明という事態も、一度や二度ではなかった。
「ピタン」でノートにペン置きという定位置ができたことで、見た目もスッキリし、非常に満足している。また、突然かかってきた電話でとっさにメモを取らなければいけないような時にも、迷わずペンを手に取ることができて大変ありがたい。
このように愛用している「ピタン」ではあるが、あえて難点を挙げるとすれば、バッグの中に乱雑に放り込んでしまうと、ペンがズレたり外れたりする可能性がある、ということだろうか。マグネットで保持しているだけなので、ペンをパッと手に取りやすいというメリットがある一方、力の加わり方によってはズレたり外れたりしてしまうリスクがある、ということだ。
メリットとリスクのどちらを取るかは、使い方によりけりと言うほかない。私のように、デスクに置きっぱなしにするメモであるとか、ノートとペンを手に持って打ち合わせのために社内を移動するとか、そんなシーンにはものすごくマッチすると思う。そこはご自身の使い方に合わせて、判断していただきたい。
カラーバリエーションは、ブラック、ホワイト、ブルーグレー、オレンジの4種類が用意されている。いずれもスマートでユニセックスな雰囲気で、ビジネスシーンにも違和感なくマッチする。また、どんなデザインのノートでもジャマにならない、シンプルな仕上がりにも好感がもてる。ペンの色によって、さりげなくノートホルダーのクリップの色も変えている(ブラックとブルーグレーがブラックのクリップ、ホワイトとオレンジがシルバーのクリップ)細かなこだわりも心憎い。
日々の食卓に箸置き、はまだハードルが高くとも、日々のノートにペン置き、は取り入れてみてはいかがだろう。なにしろ、お箸を使う時間よりも、ペンを使う時間の方が、場合によっては長いですからね。
ピタン(ゼブラ)
1320円
https://www.zebra.co.jp/sp/pitan/
※表示価格は税込み
ヨシムラマリ
ライター/イラストレーター。神奈川県横浜市出身。子供の頃、身近な画材であった紙やペンをきっかけに文房具にハマる。元大手文具メーカー社員。著書に『文房具の解剖図鑑』(エクスナレッジ)。
文房具(グ)ルメとは? 価格やブランド名だけでは価値が計り知れない、味わい深い文房具の数々。フランス料理店でシャンパングラスを傾ける記念日もあれば、無性にカップ麺が食べたくなる日もありますよね? そんな日常と重ねあわせて、文房具に造詣の深い気鋭のイラストレーターが気になるアイテムとの至福のひとときをご紹介!