三陸の魅力を素直に愉しんでほしい!!
スノーピークが目指す「被災地と呼ばれない“陸前高田”の魅力発信」とは?
「人生に、野遊びを。」というコーポレートメッセージを掲げるスノーピークが、この秋、野遊びの舞台に選んだ地は岩手県の陸前高田市。東北道の盛岡ICより国道経由で約2時間、一関ICからなら県道、国道経由で約1時間15分という、岩手県と宮城県の県境にある広田湾を見下ろす高台に「スノーピーク陸前高田キャンプフィールド」はオープンしました。
「陸前高田=被災地」と言うイメージとは打って変わって、スノーピークが手掛ける北東北初の直営キャンプ場には、オープン初日から地元ファンをはじめ、首都圏からも大勢のキャンパーたちが詰めかけ、異様な熱気に包まれていました。
取材に訪れたのはオープンの前日。東京からは車で約6時間の立地にも関わらず、オープン初日はキャンプサイトのほとんどが予約で埋まり、昼過ぎにはスノーピーク製のテントが続々と立ち並びました。
この場所はもともと、1999年に岩手県が開発・整備した「陸前高田オートキャンプ場モビリア」をリニューアルしたもの。2011年の東日本大震災の発生以降、市街地の復興が進むまでの10年間は被災した住民たち及び工事事業者の仮設住宅用地として機能してきました。2021年には市街地の復興が進み、仮設住宅エリアとしての役目を終え、2022年には168あった仮設住宅を撤去。その後、岩手県が資金を投じてキャンプ場を再整備し、2022年5月にはキャンプ場の指定管理事業者としてスノーピークが選ばれ、新たな三陸の顔として生まれ変わることになりました。
「奇跡の一本松保存プロジェクト」



平成23年3月11日、陸前高田市を地震と大津波が襲い市街地や海沿いの集落は壊滅しました。過去の度重なる津波から高田のまちを守ってきた、約7万本と言われる高田松原もほとんどが流されてしまいましたが、その中で唯一耐え残ったのが「奇跡の一本松」でした。陸前高田市では「奇跡の一本松保存プロジェクト」として保存整備することに。キャンプサイトからクルマで15分ほどの距離に建設された「東日本大震災津波伝承館 いわて TSUNAMI メモリアル.」の一角に保存されています。
三陸の新たな顔としてキャンプ場を再整備
東北地方では今年の7月にオープンした福島県・白河高原に続き2番目になるそうですが、テントサイト数は145で、新潟県にあるスノーピーク本社併設のキャンプ場(フリーサイト数250)に次ぐ規模。
現在、スノーピークではこちらを含めて全国に9つの直営キャンプ場を開発・運営していますが、その多くの箇所では、着工前に地元住民たちからの要望や意見交換を行うためのモニタリングキャンプを実施しているそう。
そんな会において今回、地元住民たちから多く出たのが、「被災地としての発信ではなく、魅力ある三陸の発信を」という声だったそう。海産物はもちろん、日本では珍しいリアス式海岸の独特な風景。東北では珍しい冬季の雪の少なさなど。そういった魅力ある地で、自然と一体になるキャンプ体験をしてほしい。そんな要望を実現するべく、タイトなスケジュールのなかでプロジェクトは動き出しました。
土地の自然環境を最大限に活かしたサイト作り

スノーピークはコロナ禍の2021年6月、全国47都道府県で直営のキャンプ場を運営するという目標を掲げ、2023年から3年間の中期経営計画によると’25年までに合計1000サイトを追加すると明記。国内のキャンプ場開拓に本腰を入れているそう。
「今後も宮崎県の都城市、さらに栃木県の鹿沼市にキャンプサイトのオープンを控えています。地域選定のポイントとしましては、眺望や景観はもちろん、人工物がなるべく少なく、その土地ならではの魅力がある場所であることを重要視しています。また、その地域の自治体や企業とのアライアンスを図っていくことになりますから、我々が目指す、社会環境や地球環境に対する姿勢や向き合い方について、一緒に考えられるチームになれるかどうかということも非常に重要なポイントになってくるかと思っています」
地域コミュニティとのつながりを大切にして、関係人口を創出し、地域活性化を進めていく。フィールド内には、スノーピークの直営ストアを併設し、今後は、地域の生産者とも協力し、地元産加工品や生鮮食材の販売も行う予定。アウトドアアクティビティとしてのキャンプ場を超える役割を目指すことも考えているそう。
「スケジュール的にタイトだったこともあり、元々あった環境を極力活かしながらも、スノーピークらしいフィールドにするために最低限必要な施設を加えて行くといったような考え方でプロジェクトを進めていきました。例えば、犬を連れてキャンプを愉しみたい方に向けて、ドックラン付きのサイトを整備したり、テント泊をまだ経験されたことのない方に向けて、『住箱』と呼ばれるモバイルハウスやキャビンなどを再整備させていただきました」
ペットOKなフリーサイトでもリードにつなぐことが必須のところも多い中で、ここは通常のフリーサイトに加え、「ドックラン付き」のサイトも整備されているお陰で、ペット連れでキャンプをされる方には非常に便利で使い勝手の良い施設となっています。


さらに、広田湾を見下ろせるサイトが数多く点在しているのがこのキャンプ場の魅力。しかも、1区画の広さも、以前のキャンプサイトの1.5倍のスペースが確保されているので、家族や仲間たちと、野遊びや焚き火、アウトドア料理を存分に愉しむことができます。
誰もが快適に楽しめる施設づくりに
キャンパーだけでなく、キャンプ初心者や一般の観光客も宿泊できるキャビンも整備されています。このキャビンは、震災前に営業していたキャンプ場のものをそのまま活かしつつ、室内を一部リノベーションされたもの。



また、スノーピークが隈研吾氏と共同開発したモバイルハウス「住箱」が3棟並びます。正面には広田湾を見下ろす絶景のポイントにもなっています。




バリアフリーなキャビンも完備
高齢者や障害がある方、子どもや妊婦の方も、皆が利用しやすいバリアフリー仕様のキャビンも用意されています。




室内には至る所に手摺がつけられ、車椅子でも十分な広さが確保された通路や扉も自動で開閉するなど、誰もが快適に安心して使える施設となっています。
そして、新たなキャンプ場には、スノーピーク製品を販売する北



また、グランドオープンに際して、岩手県知事や地元議員など、多くの関係者が集まり開所式が執り行われました。オープン当日は、全国から筋金入りのスノーピーカーが集まり、スノーピークの執行役員たちと仲良く肩を組んで記念撮影をする姿も。地元住民はもちろん、全国に80万人いるというスノーピーク会員も、この陸前高田キャンプフィールドの誕生を喜んでいる様子が伝わってきました。


自然の魅力を地域の新たな価値創出に!
地域の豊かな自然資源を生かし、自然指向の新しいライフスタイル生み出そうという動きが全国各地で起こっていることから、近年、伸び続けているアウトドア需要。このキャンプ場を起点に、国内に約80万人いるというスノーピークの会員と陸前高田を中心とした、県内外の様々な事業者とが協力し合いながら、地域内で経済を循環させられる環境作りが期待されています。
地方には、まだ発見されていない魅力的な自然資源がたくさん存在します。そんな自然資源をうまく活用することが、環境問題の解決や地域経済の活性化につながり、結果として地方創生になっていく、そんな好事例に出会えた取材となりました。
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撮影:樗澤広樹(編集部) 取材・文:伊澤一臣