特集・連載
今日から始める美味しい暮らし[ベジカジライフ]
新しい「タイパ」にハッと気付かされた脱・文明社会的ハット
週末農家・坂下史郎のベジカジライフ 「ビジカジ」に始まり、あらゆる分野でカジュアル化が加速する昨今。次のジャンルは?と問われれば、それはズバリ、ガーデニングである! 週末農家・坂下史郎さんが徒然なるままに書き連ねる、ちょっぴり土臭くて小粋なガーデニング放談。 この記事は特集・連載「週末農家・坂下史郎のベジカジライフ」#11です。
週末農家・坂下史郎のベジカジライフ
フライングクラウドハッツのアーミッシュハット
毎年の恒例で、人参の種を畑のどこかしらに蒔く。ほったらかしでも勝手に育つしすぐ収穫できる、頻繁に通えない週末農家にはありがたい野菜である。しかも一度に全部収穫せず一部を残してトウ立ちさせれば、咲いた花から種が落ちて、また次の年には芽が出てくるのだ。
ただ、そんな自然のサイクルを数シーズン眺めていてふと思ったのが、人参たちも塩山の土地に合わせて少しずつ進化を遂げているのではないか、ということ。
もちろんその年の気候なども関係してくるとは思うが、「去年より虫があまり付かなくなっているなぁ」とか、「色や形が少し変わったなぁ」といった微細な変化を感じることが時々ある。
でもそのスピードは、日進月歩する人間界の文明や経済に比べれば、とてもゆっくりだ。思うに人間というのは、ずいぶん前から突出して生き急ぐ動物になってしまったんじゃないか。そしてその感覚を少しでも自然の時間軸に戻していけば、本当の幸福度も変わってくるんじゃないか、と思う。
近年「スローライフ」という言葉がもて囃されているが、世界には遠い昔からその感覚を代々守り続けている人々がいる。それも文明が成熟した先進国に住みながらにして、だ。
中でも特に広く知られているのは、アメリカの「アーミッシュ」だろう。信仰の考えから導かれた生活様式は一貫していて、そのスタイルは時に好奇な目で見られることもあるが、同時に憧れや共感を持つ人も多い。
そんなアーミッシュに自分が目覚めたきっかけは、ハリソン・フォード主演の『刑事ジョン・ブック/目撃者』である。
ボタンさえ過度な装飾とみなして使わないシンプルさや、独特な髭のスタイル、老人から子供たち、様々な体型の人が着ても不思議と雰囲気が完成されるところなど、こんなにも削ぎ落としたデザインの上に成立する“あまねく似合う服”に強く惹かれた。
それもあって数年前に購入したのが、実際に現地で作られているハット。アーミッシュの人々を象徴するアイテムの一つで、シンプルだがやや高いフラットなクラウン、幅広のブリムが麦わら帽子とはまた違う独特のバランスだ。
最近流行りの「タイパ」という言葉は、「いかに時間をかけず生産効率を上げられるか」という意味で使われることが多い。しかし、まったく逆の観点から、「じっくりと時間をかけて物事に向き合うことで、心の満足感を得る」のもタイパと言えないだろうか?
このハットを被りながら、残暑でボーッとする頭の中でそんなことに思いを馳せていた今年の夏だった。
フライングクラウドハッツのアーミッシュハット
アメリカやカナダなどに居住するドイツ系移民の宗教集団「アーミッシュ」で、伝統的に作られているハンドメイドのストローハット。このシルクハットのような独特の形も、もしかすると礼装に合うように作られたのかも?と思いを巡らすのも楽しい。相場価格は1万2000円〜1万4000円ほど(※編集部調べ)
①しっかり目の詰まったストローハットで、側から見たときにとても涼しげな点が気に入っている。
②アーミッシュでは男性しかハットを被らないらしく、クラウンも深め。
③これは根菜あるあるだが、こんなに立派な葉をつけていても根っこは赤ん坊のように小さい、なんてこともざらにある。
坂下史郎
さかしたしろう/1970年生まれ。セレクトショップや著名ブランドのMD職を経て独立。2015年から都内と山梨・塩山での二拠点生活を始め、以来週末の山暮らしがルーティンに。デザイナーとしての顔も持ち、自身が手掛けるブランド「221VILLAGE(221ヴィレッジ)」と「迷迭香(マンネンロウ)」には、その趣向を反映させた街⇄山で活躍する機能服が揃う。
※表示価格は税込み
[ビギン2023年12月号の記事を再構成]文/坂下史郎 写真/丸益功紀(BOIL)