特集・連載
文房具(グ)ルメ
育ち盛りにはうれしい!? 「ゴツ盛りインクの蛍光ペン」
文房具マニア・ヨシムラマリの文房具(グ)ルメ 国内外のブランドがひしめき、文房具大国といわれる我が日本。高級品が威厳を放つ一方で数百円の筆記具がイノベーションを起こすなど、貴賤上下の別のない世界はラーメン店がミシュランの星を獲得するニッポングルメと相似関係にあり。というワケで、文房グルマンのイラストレーター、ヨシムラマリ氏がその日の気分とお腹のすき具合でさまざまな文房具を食リポしちゃいます。描き下ろしイラストとともにご賞味あそばせ! この記事は特集・連載「文房具マニア・ヨシムラマリの文房具(グ)ルメ」#31です。
昔から、少食というわけではないけれど、食べるのが遅いことがちょっとした悩みだ。家庭環境なのか、あるいは噛む回数が人よりも多いのか、原因はよくわからない。
一人のときならば何の問題もないのだが、人と一緒に食事をするときは、少々気をつかうことがある。給食は自分が食べ終わるまで片付かないから、みんなが遊べない。新入社員のときは営業職に配属され、まわりは食べるのが早い男性ばかり。みんな早々に食べ終わっているのに、自分だけまだ食べている、ということが往々にしてあった。
それで何かイヤミを言われていじめられたり、怒られたりしたことはないけれど、待たせてしまっていることがどうにも申しわけなくて、まだお腹いっぱいではないのに「もう大丈夫です」と言って、食事を途中で切り上げたりしていた。
そんな私にしてみれば、大食いタレントは羨望の的である。信じられないくらい山盛りの料理を、ものすごいスピードでスルスルと口に運んでいく。とても真似できないなぁと思いつつ、あこがれる気持ちもある。
なぜそんな話をしはじめたのかというと、今年の7月に発売されたエポックケミカルの新商品、「ゴツ盛りインクの蛍光ペン」を手にしたからだ。なんだか男子高校生をターゲットにしたカップ焼きそばみたいな名前だが、れっきとした文房具である。
このペンの売りは、なんといってもそのインクの量にある。一般的な蛍光ペンよりも太めの胴軸の中に、たっぷたっぷに入っているのがひと目見ただけでもわかる。その量、実に9.5ミリリットル。これは、エポックケミカルが販売している、従来の蛍光ペンの約6倍だそう。筆記距離も、通常が約80メートルのところ、ゴツ盛りインクの蛍光ペンは約577メートルとケタ違いだ。
そう言われてもピンとこないという方にお伝えすると、高尾山の標高が約599メートルらしい。つまり、このペン1本でそれぐらいの距離が書けるということ。……自分で言っていてなんだが、あまりのすごさにやっぱりピンとこなかった。というか、ペンの筆記距離を山の標高でたとえる日がくるとは思わなかった。
とにかく、筆記距離が長いということは、仕事や勉強で、日々大量に蛍光ペンを消費する人にとっては、実にありがたい話だ。
もうひとつ嬉しいのは、このペンが直液式だということ。一般的な蛍光ペンは、胴軸の中に綿が入っていて、それにインクをしみこませてある。綿にペン芯をさして、そこからしみだしてくるインクを使って書くのだ。これを、中綿式という。
中綿式はインクが漏れにくいといったメリットがあるが、ヘビーユーザーにとっては、ひとつ困ったことがある。連続して筆記すると、書くスピードがインクのしみだしてくるスピードを上回ってしまって、まだインクが残っているのに書けない、という事態が起こるのだ。
まだお腹いっぱいじゃないのに、食べるのが遅くて「もう大丈夫です」と言っていた自分を見るようで、胸がギュッとなる。
その点、ゴツ盛りインクの蛍光ペンは、インクが液体の状態でボディに入っている直液式なので、ペン先へのインクの供給が早いのがメリットだ。ちょっとかすれてきたな、と思ったら、ペン先をクッと1〜2回、軽く押し込めば、あっという間にインクがペン先まで届いて、再びスルスルと書けるようになる。
また、軸が透明なので、インクの残量がわかりやすいのもありがたい。中綿式だと、インクがもう無いのか、それともペン先への供給が追いついていないだけなのか、と迷うことがある。それが直液式なら、見えるインクがなくなれば終わり、と判断がつきやすいのだ。きみはまだ書けるのかい?書けないのかい?どっちなんだい?と悩むストレスからも解放される。
そんなわけで、ゴツ盛りインクの蛍光ペンはまさに、文具界の頼りになるカリスマ大食いタレントだと言えるだろう。カラーバリエーションはイエロー、ピンク、オレンジの3色が用意されている。インクの出が潤沢であるがゆえに、使い方によっては裏抜けや裏うつりに注意が必要だが、日々ガッツリ蛍光ペンを使うお仕事の方は、ぜひ手に取ってみていただきたい。
ゴツ盛りインクの蛍光ペン(エポックケミカル)
374円
https://www.epoch-chemical.jp/original/UTILITY/gotsumori.html
※表示価格は税込み
ヨシムラマリ
ライター/イラストレーター。神奈川県横浜市出身。子供の頃、身近な画材であった紙やペンをきっかけに文房具にハマる。元大手文具メーカー社員。著書に『文房具の解剖図鑑』(エクスナレッジ)。
文房具(グ)ルメとは? 価格やブランド名だけでは価値が計り知れない、味わい深い文房具の数々。フランス料理店でシャンパングラスを傾ける記念日もあれば、無性にカップ麺が食べたくなる日もありますよね? そんな日常と重ねあわせて、文房具に造詣の深い気鋭のイラストレーターが気になるアイテムとの至福のひとときをご紹介!