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“食べるように飲む!?” 

右:出羽桜酒造株式会社 専務取締役 仲野翔太郎さん 左:出羽桜酒造株式会社 取締役 仲野あかりさん

ここ数年で、賑わいをみせるクラフトコーラ。スパイスやハーブ、柑橘類に甘味料などを煮込んで作ることから「手作りのコーラ」とも称される。各地域の職人が創意工夫を凝らした個性豊かな味わいが話題だ。そんなクラフトコーラに、愛好家はもちろん、初心者にとっても見逃せない、とても“日本らしいコーラ”が東北、山形にあるということで取材に訪れた。

 

訪れた場所:出羽桜酒造株式会社

山形県天童市で出迎えてくれたのは、この地で1892年に創業した老舗の酒蔵、出羽桜酒蔵の次代を担う、専務取締役の仲野翔太郎さん、取締役の仲野あかりさんご夫婦。出羽桜といえば、国内でもいち早く1997年より日本酒の輸出を本格的に開始。欧州向けから始まった輸出は、現在ではアジア・米国など、世界35か国以上に販路を拡大している東北屈指の老舗酒蔵だ。早速、お二人に、今回手掛けたクラフトコーラについて、開発のきっかけやこだわりの製法についてうかがってみた。

 

「休日にたまたま入ったカフェのメニューにクラフトコーラを発見し、飲んでみたところ、その美味しさに驚愕。それ以来、その味に取り憑かれてしまいました。それから、自宅でコーラを作れることを知り、スパイスを買い揃えて、趣味でコーラ作りを始めたのがきっかけでした。」(翔太郎さん)

「とても夢中になっていましたね。それこそ、夜な夜な自宅のキッチンで、スパイスを火にかけて煮詰めている様子は、まるで魔女のようでしたからね()(あかりさん)

そのうちに、酒蔵ならではのクラフトコーラを作りたいと思うようになり、麹甘酒の技術を応用した、米麹入りのクラフトコーラを考えるに至った。

「弊社は日本酒蔵ですから、せっかくならその技術をクラフトコーラ作りにも活かせないものかと考えました。一般的なクラフトコーラは、各種スパイスに、上砂糖や三温糖、キビ砂糖などの糖分を加えて作られています。スパイスは、作り手の好みによって、市販の材料を色々と調合すれば良いと思いますが、私が目をつけたのは、スパイスに混ぜる糖分。砂糖の代わりに、酒蔵ならではの甘酒で代用することを思いついて、それにチャレンジしました」

なるほど、確かに、米麹の甘酒は、酒蔵ならではのモノ。それをスパイスエキスと混ぜ合わせれば、これまでにないクラフトコーラになりそうだ。飲んだときの独特のツブツブ感の謎がここで解けた。正体は米麹だったのだ。

せっかくなのでと、翔太郎さんが、米麹を作る麹室を案内してくれた。

「ここが麹を製造する場所で、麹室と呼ばれているところになります。日本酒は、主として寒い時期に醸造しますが、麹菌の発育温度が高い(30℃~40℃)上、適度な湿度を要するため、麹造りには外気と遮断した部屋(室)が必要となっています」

ここで、麹のタネである麹菌を蒸した米に振りかける。温度のムラがでないよう温度管理のもと入念に手入れをすると、菌が培養され、2日ほどかけて日本酒や甘酒などのもとになる米麹が完成するというわけだ。

米を洗い、蒸し上がった酒米を麹室と呼ばれる部屋に担ぎ込み、手作業で台の上に広げる。麹室とは麹菌を繁殖させるために高温で管理された部屋で、温度が約32~34℃に保たれている。広げた酒米に写真のふるいを使って「もやし」と呼ばれる麹菌を振りかけていく。振りかけた麹菌が米全体に満遍なく付着するようにしっかりと手で揉みこみ混ぜ合わせていく。

「次に、厳選した7種類のスパイスを煮込んでエキス抽出。そこに、先ほどの米麹を入れて、55℃程度で糖化して甘酒をつくります。 55℃という温度は糖化作用に適しており、熱に弱い麹の酵素(約60℃で働かなくなる)を破壊せずに、効率的に糖化を完了してくれるのです。これは、クラフトコーラ作りにおける世界初の技術だと思います。」

なるほど。原材料は米麹と米、そして酒造りに使う仕込水のみ。麹を使った自然の甘酒をベースに、麹のことを知り尽くした翔太郎さんが、丹精込めて手造りで仕込んだクラフトコーラ。発酵のプロが造ったクラフトコーラは、麹の力が存分に引き出され、甘さと旨みが絶妙なものに仕上がっている。これこそまさに、酒蔵でしか味わえない逸品といえる。

column:夏の酒蔵

米麹が糖化している最中には、同社自慢の吟醸酒が次々と出荷されていく。

蔵の中は、夏でもひんやり。徹底した湿度管理と衛生管理がされており、とてもクリーンな空間だ。

 

米麹のツブツブが、唯一無二の新食感!

夏にオススメの飲み方だという、ソーダ割をいただいてみることに。吟醸酒の麹造りと同じ製法で造った米麹のスッキリとした甘さが、シュワっとしたソーダの爽やかさにぴったり。厳選されたスパイスとも絶妙のハーモニーを奏でる。

「味を調整するためにごく少量の砂糖を使用していますが、砂糖特有の強い甘さはなく、優しくてさっぱりとした喉越しの良い甘味を感じてもらえると思います。ソーダ割りも良いですが、実は、原液1に対し、冷たい牛乳1~2程度の割合でブレンドしてみてください。インド式のミルクティー、チャイのようなまろやかさが楽しめます!」

原材料には、米麹(山形県産米)、砂糖、レモン、カルダモン、クローブ、オールスパイス、コリアンダーシード、シナモン、カシア、ナツメグが使われている。555ml、2160円(出羽桜オンラインストア)

酒蔵ならではの作り方にこだわる出羽桜の『蔵ふとコーラ』だが、その販売方法にもひとひねりあった。県外へはまだ出張できていないそうだが、近くで開催されるマルシェやイベントなどには、こちらのキッチンカーで駆けつけることもある。

「これからの時代は、デジタルも然り、色々なアプローチ方法で、お客様に商品をプロモーションしていくことが必要です。我々は日本酒蔵ですから、美味しい日本酒を世界中のお客様に楽しんでいただくことはもちろん大事なことだと思っています。それと同時に、このコロナ禍により、健康志向の急激な高まりもあって、お酒離れも進んでいる現状もあります。甘酒や麹を使ったような、日本酒以外の商品からも出羽桜酒造を知ってもらうきっかけ作りも必要です。そういった意味でも、クラフトコーラは、新たな時代に向けた一つのチャレンジになるのではないかとも思っています」

日本の伝統的な飲料である甘酒をベースに、米麹の食感を楽しみながらいただく日本酒蔵ならではのクラフトコーラ。「若者の酒離れ」といわれる世間の“常識”を覆す、老舗酒蔵の新たな挑戦から、今後も目が離せない。

出羽桜酒造
TEL 023-653-5121 https://www.dewazakura.co.jp/

写真/佐藤俊介 取材・文/伊澤一臣 

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