特集・連載
文房具(グ)ルメ
薄味に仕上げた料理を美味しいと感じる年齢になってきたら「マイルドライナー」です
文房具マニア・ヨシムラマリの文房具(グ)ルメ 国内外のブランドがひしめき、文房具大国といわれる我が日本。高級品が威厳を放つ一方で数百円の筆記具がイノベーションを起こすなど、貴賤上下の別のない世界はラーメン店がミシュランの星を獲得するニッポングルメと相似関係にあり。というワケで、文房グルマンのイラストレーター、ヨシムラマリ氏がその日の気分とお腹のすき具合でさまざまな文房具を食リポしちゃいます。描き下ろしイラストとともにご賞味あそばせ! この記事は特集・連載「文房具マニア・ヨシムラマリの文房具(グ)ルメ」#29です。
ポテトチップスのコンソメダブルパンチ味をバリバリと食べ、ガッツリ濃厚な魚介豚骨スープのつけ麺をすすり、白飯なんて食えるか!とばかりにご飯にふりかけをバサバサかける。味というものは濃ければ濃いほどいいんだ!と思っていた時代も今は昔。最近ではむしろ、素材の持ち味を活かしてほどよく旨味を効かせつつ、薄味に仕上げた料理を美味しいと感じる年齢になってきた。
折しも、厚生労働省が国民の健康づくりに向けて、食事や生活習慣などについての考え方や数値目標を定めた基本計画「健康日本21」の見直しが行われ、来年度からの新たな目標が先日発表されている。それによると、塩分摂取量の目標値は、現状の1日あたり10.1グラムから、7グラム未満にまで引き下げられるとのこと。
ラーメン1杯を汁まで飲んだ場合の塩分量は約6グラムらしいので、1日3食で7グラム未満とはなかなか厳しいようにも感じるが、健康のためには気をつけなければならないことなのだろう。最近はスーパーマーケットの調味料や加工食品の棚にも「減塩」を売りにした商品が多く並んでいる。それだけ品物があるのは、世間一般の関心が高いということの表れでもある。
文具界にも一つ、濃いよりも薄いのが良い、と人気を博しているアイテムがある。女子高生をはじめとする若者に人気の筆記具を数多く世に送り出しているゼブラの「マイルドライナー」だ。「マイルド」の名の通り、おだやかな色合いが特徴のラインマーカーである。
マーカーの色が薄いというのが、2009年の発売当時いかに革命的なことだったか。そもそもマーカーというのは、「大事なところを目立たせる」のを目的として生まれた筆記具だ。つまり、ラーメンのこってりスープのごとく、蛍光感ギラギラの派手な色が良しとされていたのである。
しかし、マーカーをたくさん引いたノートや教科書と長時間向き合う学生は、ビカビカの蛍光色をずっと見続けることになり、目がチカチカする。そこで、マーカーなのに蛍光感がひかえめで目立ちにくいという、ある意味マーカーとしての存在意義に真っ向から対立するような商品を出したところ、これがあっという間に大人気となったのだ。
また、マイルドライナーがラインマーカーとしてさらに画期的だったのは、「グレー」をラインアップしていたことである。じつは、マーカーには「目立たせる」だけではなく、チェックリストなどで終わったところを消し込む、つまり「目立たせたくない」ところに引く、というニーズもあったのだ。グレーを引いた部分は白いところよりも沈んで見えるので、「引いていないところの方が目立つ」という、いわば「逆マーカー」として成立するのがおもしろい。
こうして、減塩味噌が塩分控えめを売りにしているように、マイルドライナーは従来「濃くて目立つほどいい」と思われていたインクの色を「薄くひかえめにする」という引き算の発想で、今やラインマーカー界に欠かすことのできない定番の商品となったのである。
発売以来、その人気と勢いは衰えることなく、2022年3月現在で、インスタグラムの関連投稿数は34万件以上、シリーズの累計販売本数は1.5億本以上(2020年3月末ゼブラ出荷実績)となっており、カラーバリエーションも当初の15色から35色にまで拡大している。
最近では、勉強や資料の読み込みといった従来のラインマーカーの使用シーンにとどまらず、かわいらしい色合いと、紙の裏に移りにくい水性顔料インクの特徴を生かし、手帳を華やかに彩るデコレーションにも用途が広がっているという。
仕事中はずっとPCやスマホのディスプレーとにらめっこで、目がお疲れ気味の社会人の皆さん。せめてラインマーカーはマイルドな物を選んで、自分をいたわってみてはいかがかな。
ゼブラ
マイルドライナー
110円
https://www.zebra.co.jp/pro/mildliner/
※表示価格は税込み
ヨシムラマリ
ライター/イラストレーター。神奈川県横浜市出身。子供の頃、身近な画材であった紙やペンをきっかけに文房具にハマる。元大手文具メーカー社員。著書に『文房具の解剖図鑑』(エクスナレッジ)。