特集・連載
「価値が上がった喜びより手に入れた時の喜びの方が断然上」ロレックス
センスがエグい腕時計ガイド ビギンは考えました。センスがいい人は、腕時計選びの背景にも光るものがあるはずだ。時計との巡りあわせは、時にその人の生き様までも垣間見えるのです。だからこそ、えげつないセンスを感じさせる愛機の選び方を知りたい! 時計は、持ち主の味(センス)が現れるものだから。 この記事は特集・連載「センスがエグい腕時計ガイド」#01です。
レミ レリーフ 後藤 豊さんの俺的名作時計
【ロレックス】GMTマスター
スポロレに憧れ始めたのは高校生の頃から。入学した高校に妙にお金持ちの子が多くて、スポロレ率が異様に高かったんです。当時はなによりモテを重視していたから(笑)、喉から手が出るほど欲しかったけれど、とてもじゃないけど手が出ない。その悔しさが逆に憧れを強くしたのかもしれません。
念願叶ったのは二十歳の時。某大手配送会社の深夜バイトで貯めた20万円を握りしめて、地元名古屋市にあったロレックスに強い時計店を訪れ、出会ったのがこれ。実を言うと本当はサブマリーナーが欲しかったんですが、予算が足りなくて限られた中古スポロレしか選択肢がなかった。
当時はまだ“ヴィンテージロレックス”というジャンルが体系化される前だったし、自分自身も全然知識がなかったから、半ば妥協するような気持ちで購入したのを覚えています。
ただ今考えるとこの選択が大正解。実はこの63年製のGMTマスターは極めて稀少で、ミラーダイヤル、先端の小さいGMT針、ゴールドレター、ヒラメケースと、コレクター垂涎のレアディテールが全部入りしていたんです。
おかげで当時はただの中古のGMTと認識されていてさほど価値もなかったのに、今ではかなりの高額で取り引きされることも。とんでもなくおいしい買い物でした。
でも価値が上がったのはあくまで偶然の産物。やっぱり初めて買った時の喜びには敵いません。苦楽をともにしてきたし、多分どれだけ価値が上がっても手放しませんね。
- パン・アメリカン航空の要望で開発され、1955年発売
- 昼夜を瞬時に識別できる色分けベゼルがアイコン
- 1982年からはGMTマスターIIにバトンタッチ
90年代に勤めていた会社で、ヴィンテージロレックスの買い付け業務も担当していた後藤さん。膨大な知識のもとに収集したロレックスやゴローズのアクセは、今ではほぼ手放してしまったが、このRef.1675や53年製オイスターなど、一部の名機は手元に。
正規でオーバーホールを依頼すると新品のパーツに交換され、せっかくの味がリセットされてしまうため、信頼を置く山下時計店で定期的にメンテしてもらっているそう。
ゴローズの顔ブレスの空間にリューズガードをピタリと収めるのがルーティン
レミ レリーフ デザイナー
後藤 豊さん
1970年生まれ。自社ファクトリーで熟練職人が行う、リアルなヴィンテージ加工でお馴染みの人気ブランドを牽引する、アメカジ聖人。
[おいしい時計選びの極意]リセールバリューの予想よりも直感を重視。
[ビギン2023年8月号の記事を再構成]スタッフクレジットは本誌をご覧ください。