芸能人もお忍びで通う、スニーカーのカスタマイズ、リペア、クリーニング店「OnebyOne=(ワンバイワンイコール)」。手持ちのスニーカーをゴルフシューズにカスタマイズしてくれるサービスが話題となっています。後半では、「手持ちのスニーカー約50足が全て実験台になってしまった」という開発エピソードを紹介します。
今回のビギニン
ワンバイワンイコール 金岩 宏さん
1988年生まれ。大阪府出身。大学卒業後、靴づくりを総合的に学べる専門学校へ。6年間の準備期間を経て、2022年に「OnebyOne=(ワンバイワンイコール)」を創業。同年3月に阪急メンズ東京の8F「GINZA SNEAKER HILLS(ギンザスニーカーヒルズ)」にショップをオープン。スニーカーのカスタマイズやリペア、クリーニングを店頭の工房で行う。
Struggle:
スニーカーとソールの接合部の強度を上げる
金岩さんの提案しているカスタマイズサービスでは、一度スニーカーのソールを全撤去(スパイクソールカスタムの場合)してから、専用に作ったソールを本体にはめ込みます。ですが、そんなに大袈裟な移植をせずとも、市場にはゴルフシューズ専用スパイクキットが出回っており、それを使えば素人でも簡単にスニーカーをカスタマイズできます。では、あえてワンバイワンイコールにスニーカーを持ち込む価値はなんなのか。金石さんは「快適性と実用性にこだわった」と言います。
「10年くらいゴルフをやっていて、スパイク鋲をスニーカーに刺すタイプも試したことがあるんです。あくまで個人的な感想になりますが、やっぱり履き心地がイマイチで。自分の足の形に合っていなかったのか、スウィングするときに足を踏ん張ると痛い。ラウンド中にスパイク鋲が外れることもありました。なので、当初はスパイク鋲の品質や仕様をアップデートすることも考えました」と金岩さん。
「これじゃダメだ!ソール作らなきゃどうにもならないとすぐに思い直しました。自分が作るなら、絶対に快適性も追求したかった。プロゴルファーでも履きたくなるようなクオリティを目指しました」

大変だったのは、スニーカーからソールをキレイに剥がす技術の習得。「お持ちいただいたスニーカーのソールが加水分解している場合はポロポロと簡単に剥がれていきますが、真新しいものはそうはいかない。ヴァルカナイズ製法でくっつけられた巻き上げソールは本当に難しい。その方法は、ちょっと教えられません。すみません、企業秘密です(笑)」
金岩さんが練習に使用した自前のスニーカーはおよそ50足。納得の出来になるまで、何度も何度も実験と検証を繰り返しました。
「最初は全然使えないスニーカーばかりでしたね。持っていたスニーカーは全部使っちゃいました。お金もなくって、ついには友達から『これ使わないだろ?』って言ってスニーカーをぶんどったりして(笑)。同時にリメイクの練習もしていましたね。その中には、ここでサンプルとして飾っているものもありますよ」
一番こだわっているのは、接着部分の仕上げ。強度とビジュアルの美しさを追求するために、ソールとアッパーの重なり合う部分に、化粧革を貼り付けています。このひと手間を加えるか加えないかで、完成度が格段に変わります。スニーカーを大好きな金岩さんだからこそ、妥協できないポイントでした。
「スウィングをするときに踏ん張ると、ソールの接着部分、特に拇指球のあたりに負荷がかかります。だから実用性の面でも強度を高めるために必要な工程。それに、ソールとアッパーが重なり合う部分は、糊が付きやすいように削られているパターンが多いんです。ソールを本体から剥がすと削られている部分が剥き出しになってしまうので、それを覆い隠すという意味でも化粧革は必須ですね」
「一般的なスニーカーであれば、ソールのシルエットはそんなに変わらない」と続ける金岩さん。準備しているアウトソールの型は2つで、はめ込んだときにできるサイズの微差は、リメイク技術でカバーしているそう。金属を使っていないため、アウトソール自体は軽量です。
Reach:
好きなシューズをゴルフシューズにしたらスコアも上がるカモ!?
ソールがボロボロだけど、捨てられないスニーカー。履くだけで気分が上がる、お気に入りのスニーカー。そんな一足をゴルフシューズにカスタマイズしてくれる「ワンバイワンイコール」のサービス。ショップがオープンして一年、そのクオリティは口コミで広がっていき、著名人からオーダーを受けることもあるのだそう。ビギン編集部のスニーカー好き、タケイもカスタムサービスを利用してみました。

金岩さんに預けたのは、まだ履き始めたばかりのナイキのエアフォース1ミッドカット。ボリューミーなシルエットはそのままに、ソールはゴルフシューズ仕様にチェンジ。アッパーとソールの繋ぎ目にはクリーム色のシボ革が配されており、クリーンなボディに高級感がプラスされています。ラグジュアリーな魅力がアップした一足は、紳士なゴルフウェアにもうまくマッチ。
「想像以上の出来栄えで、もったいなくて履けないくらい(笑)。フィット感もすごく良かった! ソールのクオリティはもちろんだけど、自分がいつも履いているモデルだから足になじみやすかったのかも」と、タケイもご満悦。金岩さん、ありがとうございました!
「ゴルフ用ソールはスパイクレスタイプもあります。スパイクレスなのでゴルフ場への行き帰りもこれ一足で十分。スニーカーのソールの上から被せるようにしてくっつけるので、対応できるスニーカーのデザインはさらに広がります。例えばナイキのエアマックスなど。ソールに個性のあるスニーカーをゴルフ用にカスタムされたい方におすすめです」

現在、カスタムオーダーのメニューはゴルフシューズ以外に、ベースボールシューズへのリメイクも受け付けています。ソールのデザインが異なるだけで、ソールの取り付け方法は同じ。「ゴルフシューズが作れるんなら、野球バージョンもできるだろうと思って少し前に開発しました。土地柄、海外からお越しのお客様も多いので、スニーカーカスタマイズの魅力を世界に広めていきたいです」と金岩さん。今後はオリジナルのスニーカー作りも視野に入れているんだそう。
「ずっと自分のスニーカーを作りたいと思っていました。ところが、専門学校に通って学べたことは革靴作りで(笑)。やりたいことと、できること。それぞれをミックスできるのが、カスタムサービスを始めたきっかけです。今後はオリジナルブランドを立ち上げられるように頑張りたいですね」
スニーカーをゴルフシューズにリメイクするカスタマイズサービス。スパイクソール仕様は、プロの着用するゴルフシューズと遜色ない本格仕様。クッション性に優れ疲れにくく、グリップ力も高い。ソールのカラーはホワイト+グレー。樹脂でできたスパイク鋲は付け替え可能で、ラウンドや練習で使用しているうちにすり減ってしまっても交換できる。3万5000円〜4万円。
スパイクレスソール仕様は、スニーカーソールにゴルフ専用ソールを覆い被せる。スパイクソール仕様に比べて、さらに軽量。スパイクレスなのでゴルフ場への行き帰りも、カスタムシューズ一足で十分。素材はビブラムソール、ミシュランソールの2種類。最新色はビブラムソールのサックスブルー。1万8000円〜2万8000円。
※カスタムしたシューズは各メーカーの保証の対象外となります。
(問)阪急メンズ東京8階 ワンバイワンイコール
☎03-6252-5454
https://0neby0ne.official.ec/
※表示価格は税込み
写真 / 丸益功紀 文 / 妹尾龍都