特集・連載
今日から始める美味しい暮らし[ベジカジライフ]
昔のカンフー映画で見かけたような“素朴”の美学を味わえるバケツ
週末農家・坂下史郎のベジカジライフ 「ビジカジ」に始まり、あらゆる分野でカジュアル化が加速する昨今。次のジャンルは?と問われれば、それはズバリ、ガーデニングである! 週末農家・坂下史郎さんが徒然なるままに書き連ねる、ちょっぴり土臭くて小粋なガーデニング放談。 この記事は特集・連載「週末農家・坂下史郎のベジカジライフ」#04です。
週末農家 坂下史郎のベジカジライフ
松野屋のトタン豆バケツ(小)
家庭菜園を始めた頃、冬にも作れる野菜を調べて植えてはみたが、週末だけの俄か農民の自分にはうまく育てるスキルも時間もなく……。そのためここ数年は冬の野菜作りをお休みしていたが、この連載が始まったからにはそうも言ってられない。何かないかと探して、今年は短期で育つ青梗菜(チンゲンサイ)を育てることにした。
この野菜、中国から日本に来た外来種に分類されるのだろうが、塩山の厳しい寒さをものともせず、ほとんど手間もかからずどんどん大きくなる。その生長力というか生命力というか、これが大陸仕込みの力強さなのだろうか。少しでも収穫時期がズレると、瞬く間に大きくなってしまうのだ。写真の株もそうだが、多分もう少し小ぶりなときに収穫したほうがより美味しい気がする……ちょっと残念。
青梗菜といえば、中華料理で使われる代表的な野菜の一つ。採れたてを見るだけで、オイスターソースやごま油、ニンニクなどと炒めた味が鮮明に浮かび上がる。
同時に、昔のカンフー映画でジャッキーやサモ・ハンあたりが街の小さな食堂で食べてるシーンとかありそうだな、みたいなどうでもいい想像も。考えてみると、遠く離れた中国や香港の日常風景を知ったきっかけがカンフー映画だったような気がする。
ブルース・リーから、初期の〜拳とつくタイトルの時代のジャッキー・チェン、その後のリー・リンチェイ(ジェット・リー)の『少林寺』と、自分も周りの友達もこぞって夢中になっていた(そういえば当時のカンフー映画って、なんでオープニングとエンディングだけ画面が縦伸びしていたんでしょうね?)。
話は戻るが、その劇中に出てくる風景は昔の日本ともよく似ている気がして、使っている道具もブリキやトタンでできたものが多かった。それが安価なプラスチックに取って代わられ、いつの間にか使い捨ての習慣が染みついてしまっているのではないか。
そんなことを2~3年前に思い立ち、素朴でアノニマスで昔ながらの道具を使いたいと、谷中の老舗荒物店・松野屋で見つけたのがこのトタンバケツだった。継ぎ目のない一枚のトタンで成形されているから、耐久性もプラスチック製より優れているだろうし、急に割れる心配もない。
収穫した野菜を運んだり水洗いするときなど、何かと重宝している。この先徐々に錆びたり、ゆくゆくは穴が開いたりするかもしれないが、それもトタンなら温かい味わいに変わっていくことだろう。そして何より、昔ながらのトタンバケツと、青々しい青梗菜がとても相性がいいように思う。
松野屋のトタン豆バケツ(小)
シンプルな形と頑丈な作りで、いかにも日用品らしい佇まいのトタンバケツ。散歩ついでに立ち寄った松野屋では、バケツ以外にもしこたま買ってしまい、帰りが大荷物になってしまったこともいい思い出だ。大サイズもあり。Φ18×H10cm。1650円(谷中松野屋)
①収穫した青梗菜は、まず水洗いをして根や葉についた泥を落とす。バケツも流し台にすっぽり収まる小ぶりなサイズで丁度よい。
②一切の継ぎ目がない丸っこいフォルムが最大の特徴で、これがなんともかわいいのだ。
③所々の虫食いも、虫が安心して食べられるほど美味しく無農薬である証。
チンゲンサイ(BRASSICA RAPA SUBSP CHINENSIS)
●アブラナ目アブラナ科
●全長:15~25cm
●生態:一年草
●原産地:中国
[一口メモ]生育期間が短くすぐ収穫できるが、大きくなりすぎると芯っぽくなってしまうので要注意。
今回のひと皿
青梗菜と牡蠣のクリームソース煮
玉ねぎとしめじをバターと菜種油で炒め、そこに小麦粉を豆乳でのばしたクリームソースを入れる。煮立ったら別で軽くソテーしておいた牡蠣と青梗菜を投入し、あとはじっくり煮込めば完成。寒い時期には特に美味しい、さながら中華風クリームシチューだ。
坂下史郎
さかしたしろう/1970年生まれ。セレクトショップや著名ブランドのMD職を経て独立。2015年から都内と山梨・塩山での二拠点生活を始め、以来毎週末の山暮らしがルーティンに。自身が手掛けるブランドの一つである「迷迭香」には、その趣向を反映させた街⇄アウトドアで活躍する機能服が豊富に揃う。
※表示価格は税込み
[ビギン2023年5月号の記事を再構成]文/坂下史郎 写真/丸益功紀(BOIL)