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ここ数年、ファッション業界の一大キーワードとなっている「SDGs」や「サスティナブル」。持続可能な社会を目指して、多くのブランドで意識が高まってきていますよね。環境に配慮した素材の採用や、長~く使えるようにするためのリペアサービスの開始など、その取り組みの内容は実に多種多様……。本連載では「SDSEEDs(エスディーシーズ)」と称して、名門ブランドのサスティナブルの種を紹介していきます!

ビームスや無印良品において、ミツバチのキャラクターが描かれた箱を見かけたことはありませんか? ご存じない方のために説明すると、こちらは不要になった衣類を回収するためのボックス。基本的にはどんな素材・デザインの衣類でも入れることができ、日本各地から膨大な量の衣類を回収しているんだとか。で、そう聞くと気になるのが「回収された衣類はその後どうなるのか?」ということ。そんなわけで今回は、この回収ボックスを展開する「ブリング」に取材をしてきました。

教えてくれたのは……

ジェプラン 営業業務部 プロダクトマーケティング課 中村崇之さん
熊本県出身。WEBデザイン会社を経て、2010年にジェプランに入社。アパレル経験ゼロの状態からブリングの立ち上げに参画し、現在はディレクターを務める。「まさか衣類のリサイクル事業の設計から携わることになるとは、自分でもびっくりです」

大量に廃棄される服を循環させたい

消費者庁が管轄する国民生活センターが発表した推計によると、2020年の衣料廃棄物の量はおよそ50万トン。そのうちの90%以上が焼却や埋め立てによって処分されており、換算すると、大型トラック約130台分を毎日焼却・埋め立てしていることになる規模だそう。環境問題への意識がここ数年の間で高くなってきてはいるものの、ファッション業界が地球に与えている影響は依然として大きいものであるといえるでしょう。

着古したコート・ニット・TシャツなんでもIN!

そうした問題を少しでも解決するために、ブリングが2010年に立ち上げたのが、「サーキュラーエコノミー推進プロジェクト(発足当初は『FU{hlb}KU-FUKUプロジェクト』)」。コンセプトは「服から服をつくる」こと。不要になった衣類を消費者にボックスに入れてもらって回収し、まだ着られるものはリユース。ポリエステル100%の衣類は自社工場で石油由来とほぼ同じ高品質な状態で原料に再生し、その他も素材に応じてリサイクルします。さらに、独自の再生ポリエステル素材「ブリングマテリアル」をメーカーに卸すほか、この素材を用いたオリジナルのアパレルブランドとしての一面も持ちます。

2023年7月18日時点での回収実施企業・ブランド数は205。スポット開催を含むと拠点数は全国で4007に及びます。回収される衣類の量は年々増加傾向にあり、昨年は1000トン以上にも達しました。全国で回収された衣類は、北九州の自社工場にて分別し、2022年は約75%をリユースすることができたそう。

「日本の衣類は、まだまだ着られるきれいな状態のものが多いと思いますね。そうした衣類はわざわざリサイクルしなくてもよいので、リユースをしてくれるところに届けているんです。しかしながら、どうしても中にはそのままでは着ることのできない衣類も混ざっています……。そのような衣類を独自の技術で分解し、新たな衣類へと生まれ変わらせるのが自分たちブリングの真骨頂なんです」

使用済みのポリエステル素材を新品同様の原料に生まれ変わらせるスゴ技!?

ブリングが独自の技術でリサイクルしているのは、ポリエステル100%の衣類。ひと口に衣類といってもその繊維は多岐にわたりますが、その中でもポリエステルをピックアップするのには理由があります。

「立ち上げ当初は、衣類の綿繊維からバイオマス燃料を製造し、それを染色工場の燃料に活用するというリサイクルを行っていましたが、これは消費者にはイメージのしづらい内容で……。社会とリサイクルが身近な存在になるには、もっと目に見えてわかるサスティナブルな取り組みをしなくちゃいけないなと思ったんです」

一方、1年間で生産される繊維の約50%を占めているのがポリエステル。速乾性や通気性などの機能性を持たせやすく耐久性も兼ね備えているのですが、化学繊維ゆえ自然分解することがないため環境への負荷が小さくありません。そのためポリエステルの使用を問題視する向きもあるのですが、だからといって、ポリエステルの使用を即刻中断するというのは現状の割合からしても非現実的。「うまく付き合っていく」のが今のところの最善策と言えましょう。

透明のペットボトルが多いワケ知ってます?

「ペットボトルをリサイクルして作られた再生ポリエステルもたくさん登場しています。しかし、それらは一度生まれ変わったらそれで終わり。その理由は、ペットボトルやポリエステル繊維は汚れを取り除くことが難しいからです。染料や顔料でさえも一般的なリサイクル技術では分解できません。繰り返し蘇らせてこそ、本当の循環。何度も再生を繰り返すポリエステル素材があれば、地球の資源を新たに使わなくて済みます」と中村さん。

ちなみに、回収されたペットボトルのうち、およそ3分の1は繊維として生まれ変わっています。中村さんによると「日本のペットボトルが透明無色なものが多いのは、リサイクルしやすくするため」なのだとか。

しかしながら、そんな従来の常識を覆す技術を同社は開発します。それが「ブリングテクノロジー」。なんと色付きポリエステルの脱色を可能にしたんです!

服から服をつくるための技術「ブリングテクノロジー」を開発!

ブリングテクノロジーとはPET(ポリエチレンテレフタレート)を対象にした、独自開発のリサイクル技術です。ブリングでは衣類から取り出したポリエステル繊維をもう一度ポリエステル樹脂に再生します。一般的な石油由来のポリエステル樹脂製造と比べて、CO2の排出量は49%も削減(出典:JEPLAN HP「SUSTAINABILITY」)!

上の写真のボトルの中に入っているのが、まさにブリングテクノロジーを使って製造された再生ポリエステルのペレットである「ブリングマテリアル」です。

左から右へ。ポリエステルを分子レベルまで分解し繊維にしていく

従来のメカニカルリサイクル(高圧洗浄による異物の除去や高温下での除染などを通して物理的に処理する手法)と違うのは、ポリエステルを分子レベルまで分解できるという点です。分子の鎖を断ち切り、中に閉じ込められていた異物を除去。クリーンになった分子の鎖を新たに繋ぎ直すことで、再び服の原料へと生まれ変わらせるのです。どんな色の衣類でも繊維から色素を抜き出すことができ、その品質も石油由来原料とほとんど変わりません。

「開発のきっかけとなったのは、大阪のとある研究者のおじいさん。たまたまテレビで当社のことを知ったらしくて。コツコツ研究を続けてきたというリサイクル技術を伝授してくれたんです」と中村さん。

「衣類を循環させていくこと自体は、もはや当たり前の世の中。実のところ世界には、当社と同じようなケミカルリサイクル技術を使う会社自体は何社かあります。しかしながら、オリジナルアイテムを作っているのはウチくらいじゃないかなと(笑)。何度も循環させるためには、自分たちでアイテムを作り、売って、回収するところまでパッケージしなければいけない。そしてエコだからという理由で買ってもらうのではなくて『欲しいものを買ったらそれがたまたまサスティナブルな素材だった』なんてことが、経済と環境とを両立していくうえで重要なことなんだと思うんです」

大切なのは消費者がほしいと思えるモノに変換できるかどうか。ブリングは2017年にリブランドした後、新しくオリジナルアイテムの展開をスタート。洗えるセットアップや無縫製パンツなど生産を強化し、その素材にはブリング独自の再生ポリエステル素材である「ブリングマテリアル」を使用しています。

ブリングマテリアルは、基本的に加工や染色は一般的な繊維と同等に行うことができます。通常は毛羽の無いポリエステル繊維を、あえて毛羽を作るひと手間をかけてほぐしてから糸にしているため、肌触りはゴワゴワしにくく非常になめらか。ブリングマテリアル100%で、コットンライクな生地感に仕上げることができます。ビギンでもお馴染みの、スノーピークやザ・ノース・フェイス、パタゴニアなどのオリジナル商品にもブリングマテリアルが使用されました。

「ただ、ブリングが満足するものは作ることができますが、他のブランドさんのOEMを引き受けられるかというと、それはまた別の話。当面は繊維ブランドとして、ブリングマテリアルを卸販売することで服作りを支えていきたいです」

新ライン! 通気性抜群の洗えるセットアップ

ブラック、ダークグレーの2色展開。セミラグランスリーブジャケット/2万6400円。ベンチレーションスラックス/1万5400円

この春にスタートした、ブリング新ライン、「JOURNÉE(ジュルネ)」。JOURNEY(ジャーニー)の語源とされる言葉で、“一日の仕事と“一日の旅という意味があります。日常のあらゆるシーンを人生の旅路として捉え、汎用性の高いクラシカルなデザインにアクティブ要素を掛け合わせた、マルチに着回せるプロダクトを展開します。

なかでもビギンが注目したのは、写真のセットアップ。中村さんの「着心地がよく便利なものを目指して開発した」という言葉の通り、ジャケットの裏地がメッシュ素材だったり、スラックスの腰部分にベンチレーションを備えていたり、これからの季節に嬉しい通気性を確保したデザインです。生地はとても軽量で、シワにもなりにくい。しかも自宅でお手軽に洗濯もできてしまうので清潔感もお手軽にキープできます。ビジネスシーンでもカジュアルシーンでも着回せて、私たちのニーズにドンピシャでしょ?

四日間穿ける!?奇跡の一枚が進化

活動量少なめの人向けのウール70%/ポリエステル30%と、活動量多めの人向けのウール50%/ポリエステル50%の2パターン。全13色。ワンダーウェア 〝ワン〞/4620円~

ブリングの中で一番人気というのが、こちらの無縫製パンツ。なんと、前後裏表で4回穿けるという代物で、キャンパーやクライマーから絶大な支持を得ているんだそう。素材はウールとリサイクルポリエステル。ウール特有の抗菌消臭効果があり、汗臭もマイルドに。空気の層ができる凸凹とした生地で、肌との接地面が少なく、ベタつきによる不快感を軽減します。ウエスト部分にもゴムを使用しておらず、ソフトな締め付けで、どんな体型の人でもフィットする一枚です。カラバリ豊富なので、ギフトにも好評とのこと。

ファッションを心から楽しめる、そんな未来のために

「自分たちの作る原料を、いろんなブランドが使えるようにしたい」と中村さんはブリングの今後を見据えます。目指すのは、再生原料が特別なものではなく当たり前になっている世界。今後は海外でもジェプランのリサイクル技術を展開していく予定とのこと。服を作る人、売る人、着る人、すべての人が心からファッションを楽しめるように。世界中のファッション業界が抱える課題に、ブリングが立ち向かいます。

(問)
ブリング /https://bring.org/
公式オンラインショップ / https://bring.org/collections/products

表示価格は税込み


写真 / 宮前一喜 文 / 妹尾龍都

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