特集・連載
今日から始める美味しい暮らし[ベジカジライフ]
山暮らしでより輝きを増した一生モノの釣りハット
週末農家・坂下史郎のベジカジライフ 「ビジカジ」に始まり、あらゆる分野でカジュアル化が加速する昨今。次のジャンルは?と問われれば、それはズバリ、ガーデニングである! 週末農家・坂下史郎さんが徒然なるままに書き連ねる、ちょっぴり土臭くて小粋なガーデニング放談。 この記事は特集・連載「週末農家・坂下史郎のベジカジライフ」#03です。
週末農家・坂下史郎のベジカジライフ
ウォーターシップのトレーディングのハット
のっけから切り出すのもどうかと思うが、実のところ私はトマトがあまり好きではない。はっきり言うと大嫌いだった。あのジュルッとした食感と青臭さがたまらなく嫌で、給食に出ても食べられず一人放課後までずっと座らされていたのを覚えている(こんなの今じゃ大問題ですが、当時の小学校では普通でしたよね?)。
以来トマトとは絶交し、数十年経った現在も生で丸ごと食べることはほとんどない。ただ、今の塩山の庭にはその旧敵がしっかりと陣取っている……いつかの海外で食べたトマト料理に「アレ? なんか旨いぞ」と感動し、料理との調和次第では美味しく付き合えると改心し復縁したのだ。
植える品種は、イタリアではパスタソース用として定番のトマト「サンマルツァーノ」が多い。子どもたちにも濃厚なイタリアの味に触れてほしくて、シーズン中は妻にも手伝ってもらいながらせっせとトマトソース作りに勤しんでいる。
そんなひと夏のルーティンが終わりに近づくのは10月末頃から。秋が深まるにつれ塩山一帯は朝方と日没後の気温がグッと下がるため、果実たちは実をつけてもうまく熟しきれないままダメになってしまう。それがあまりに勿体なくて、数年前からまだ青くて硬い状態のトマトを収穫しピクルスを作ることにした。
初めて作ったときは焼いたラム肉と一緒に食べたのだが、ひと切れ口に入れた瞬間、ラム肉とのハーモニーに衝撃が走った。今更ながら「嗚呼、これがハンバーガーにピクルスが挟まっている理由だったのか! 」と。
トマトを収穫するとき、籠やバケツのような物に摘み取っていくのだが、用意してないときは咄嗟に被っているハットを代用することがある。このウォーターシップトレーディングのハットは、20年以上前にハマっていたフライフィッシング用に購入したもの。
一番心を動かされた理由は、「水に浮く」というところだ。当時は海に山にいろいろな場所に釣りに行っていて、行く先々で帽子を落としてはゆらゆらと沈んでいく虚しさを経験していたから、この宣伝文句にはすぐに反応してしまった。
今やフライフィッシングは本当にたまにしか行かなくなってしまったけれど、改めて被ってみるとこれが庭仕事や焚き火に存外ちょうどいい。泥やススがついたりして、今またいい雰囲気に育ってきている。
山暮らしを始める前は何年もクロゼットで眠っていたが、またこうして被る機会ができた。多分死ぬまで被ったり被らなかったり……でもずっと納屋に掛かっている帽子の一つなんだろうなぁ。
ウォーターシップのトレーディングのハット
1989年に創業し、2000年代半ばには消滅してしまった知る人ぞ知る名門。水に浮くようツバには浮力体が入っている。美しいフォルムとMADE IN USAならではの無骨な素材使い、その混ざり具合に唯一無二の魅力を感じる。相場価格は1万円~(※編集部調べ)。
①この日被っていたのは、キャンバス素材のモデル「Cape Flattery」。当時はワックスドコットンのモデルもあった。
②クラウンが深く、この通り立派にバケツ代わりになる。
③イタリアントマトはほとんどが調理用。ちなみに、スーパーで見かける瓶詰や缶詰に使われているのも大体この品種。
イタリアントマト(SOLANUM LYCOPERSICUM)
●ナス目ナス科
●全長:1.5~2m
●生態:一年草
●原産地:ローマ
[一口メモ]通常のトマトに比べて3~5倍の「リコピン」を含み、うまみも豊富。育てやすいのも特徴。
今回のひと皿
青トマトのピクルス
輪切りにした青トマトに塩をまぶし、放置して水分を抜く。酢、白ワイン、ローリエ、粒コショウ、鷹の爪、お好みのハーブなどを入れて加熱して作った原液と瓶に詰め、2~3日馴染ませたら完成。シンプルゆえにいろいろ材料の配分など突き詰めるのも楽しい。
坂下史郎
さかしたしろう/1970年生まれ。セレクトショップや著名ブランドのMD職を経て独立。2015年から都内と山梨・塩山での二拠点生活を始め、以来毎週末の山暮らしがルーティンに。自身が手掛けるブランドの一つである「迷迭香」には、その趣向を反映させた街⇄アウトドアで活躍する機能服が豊富に揃う。
※表示価格は税込み
[ビギン2023年4月号の記事を再構成]文/坂下史郎 写真/丸益功紀(BOIL)