特集・連載
今日から始める美味しい暮らし[ベジカジライフ]
まさかの逆輸入で古きよき日本を再発見できた鋏
週末農家・坂下史郎のベジカジライフ 「ビジカジ」に始まり、あらゆる分野でカジュアル化が加速する昨今。次のジャンルは?と問われれば、それはズバリ、ガーデニングである! 週末農家・坂下史郎さんが徒然なるままに書き連ねる、ちょっぴり土臭くて小粋なガーデニング放談。 この記事は特集・連載「週末農家・坂下史郎のベジカジライフ」#02です。
週末農家・坂下史郎のベジカジライフ
ニワキのGR Pro 剪定ばさみ
薬味で何が好きかと聞かれたら、真っ先に山椒を挙げる。英語でJAPANESE PERPPER の名の通り日本では古くから食されていて、縄文土器からも果実が発見されたらしい(これはWikiで調べた話)。
山椒には2通りの楽しみ方がある。夏に採れる「青山椒」は、爽やかな香りがちりめん山椒にぴったりだ。ちなみに今夏もせっせと“究極のちりめん山椒”を研究していたのだが、その話はまた今度にしよう。
さて、夏用の青山椒を確保したら、あとは秋に残して「赤山椒」に熟すのを待つ。真っ赤に色づき黒い種が顔を出したら、野鳥たちが押し寄せる前に収穫していく。種を一粒ずつ取り除き、数日乾燥させ、外側の果皮をすり潰せば粉山椒の完成だ。意外と手間のかかる行程だが、嫌いではない。
収穫が一段落つけば、今度は剪定。木々たちの生長を妨げず、かつ綺麗に見える着地点を考えながら鋏を入れていく。剪定作業で何より重要なのは、剪定鋏の馴染みと切れ味だと思う。
話は少し逸れるが、ちょっと前に手入れも全くしていない安価な鋏で葡萄の剪定を手伝ったことがあった。手入れもせず手にも合わない道具は余計な力が掛かる。終わる頃には手首が腱鞘炎で酷いことに……。
早急に鋏を買い換えようと思い立ち目に留まったのが、イギリスのガーデニングブランド〈ニワキ〉の剪定鋏だった。スパッと切れる感じと独特の音、切り口の美しさ……すっかり惚れ込んでしまった。
言ってしまえばなんてことはない、昔カタギの庭師たちが使っていそうな鋏だ。ただ、長い年月を経て受け継がれてきた姿形ゆえの、一朝一夕では辿り着けない“用の美”がそこにはある。何より、古きよき日本のよさを、イギリスからの逆輸入という思わぬかたちで再発見できたことが嬉しかった。
かつてはバイヤーとして海外を飛び回っていた自分も、今は海外=オシャレという感覚も徐々に薄れて、日本の暮らしの美しさにハッと気付かされることが多い。
例えばダッチオーブンの代わりに南部鉄器の鍋を使ってみたり、サボサンダルは下駄だな……と思ってみたり、生地のロスなんて殆ど出ない和裁はどれだけ昔から今流行りのサステナブルだったんだろうとか。この鋏も例外ではなく、昔から形を変えない道具にはある種の美しさがある。
そしてそんな道具たちは、手入れをしながら使い続けることでより一層愛着が増していくのだ。日本の庭道具の素晴らしさに敬意を表しつつも、絶えず進化を重ね伝承していく〈ニワキ〉に、自分の国のよいところをまた一つ気付かせてもらった。
ニワキのGR Pro 剪定ばさみ
日本有数の刃物の生産地・新潟県燕三条にて手作業で鍛造される、ブランドでベストセラーを誇る剪定鋏。堅牢で耐摩耗性に優れる鋼で気兼ねなく使えるうえに、人間工学に基づいて設計されたグリップが使い始めの初日から手に馴染んでくれる。9600円(ニワキ)
①購入したのはやや太めの枝を切る鋏だが、大は小を兼ねるので問題ない。
②ブランドを立ち上げたイギリス人庭師・Jakeさんは日本庭園の美しさに触れ、実際に大阪で剪定技術を学んでいたそうだ。
③山椒の種は野鳥に大人気。野鳥ウォッチャーの方、ぜひ庭やベランダで一株育ててみては?
日本山椒(JAPANESE PEPPER)
●ミカン科サンショウ属
●全長:1~3m
●生態:落葉低木
●原産地:日本
[一口メモ]実をつけるまでに1~2年ほどかかる。香りは「青山椒」、辛みは「赤山椒」が強いとされる。
今回のひと皿
麻婆豆腐に日本山椒
山椒といえば、やっぱり麻婆豆腐。本場四川の痺れるような山椒に比べ、日本山椒はマイルドな辛さで酒のお供にちょうどいい。すり鉢ですって何度か濾して細かい粉状にするのが本来の粉山椒だが、面倒なので胡椒の要領でミルの設定を細かくして使っている。
坂下史郎
さかしたしろう/1970年生まれ。セレクトショップや著名ブランドのMD職を経て独立。2015年から都内と山梨・塩山での二拠点生活を始め、以来毎週末の山暮らしがルーティンに。自身が手掛けるブランドの一つである「迷迭香」には、その趣向を反映させた街⇄アウトドアで活躍する機能服が豊富に揃う。
※表示価格は税込み
[ビギン2023年2・3月号の記事を再構成]文/坂下史郎 写真/丸益功紀(BOIL)