特集・連載
今季はとくに豊作ってことで「ジャーマントレーナー」ストーリー解説
スニーカー 新・レトロ主義 コレクターや転バイヤーによる争奪戦が勃発! ネットフリマではショーゲキの高値で落札!? 著名人やハイブランドのコラボなど、スニーカー界のトレンドはプレミアものしか勝たん!状態なようで。もちろん、それが悪いとは言わないけど、前衛的なデザインはちょっと扱いづらいし、投機目的で買うのはロマンがないよなぁ、な〜んて思ったり。そこで、ビギンは誰もが安心して履ける"レトロ"に注目! だってスニーカーって毎日の歩みを支えてくれるものだし、何十年と愛され続ける定番やどこか懐かしい顔のスニーカーが、結局我らベーシック好きのワードローブには一番しっくりくるでしょ? え、レトロって古くさく見えない?的な心配も不要。たとえばレトロな要素をMIXしてモダンな顔つきにアップデートしたり、ソールだけ最新のエアに替えてみたり……。程よく"今っぽい"エッセンスが加えられた「新・レトロ」を選びの基準にすれば、時代も年齢も関係なくず〜っとカッコイイ♪ってわけで、ドドンっといっちゃいましょ! この記事は特集・連載「スニーカー 新・レトロ主義」#10です。
じつは知るほどに楽しいストーリーが盛り沢山!
ジャーマントレーナーってなんとなく知ってるけど……という方のために、出自から人気の理由をおさらいしてみましょう。
ルーツは70年代からある西ドイツ軍の屋内用トレーニングシューズ。軍用ゆえのシンプルに機能を追求したデザインで、丈夫で屈曲性に優れるヴァルカナイズド製法×レザーアッパー、トウのスエードの補強、グリップに優れたガムソールが特徴です。

《余計なロゴなどがない超シンプルなデザインも特徴!》
こちらはヴィンテージのジャーマントレーナー。海外ではGermanArmy Trainerとも称され、頭文字を略してGATとも呼ばれる。軍用品らしく余剰なデザインはなく、タンにナンバリング刻印のみ。教官用の黒はヴィンテージ市場でもレアな存在だ。(スタッフ私物)

ちなみにヴィンテージでは色は白が圧倒的に多く、レアな黒もあります。これは白が訓練生、黒が教官用だったから。また当初はアディダスとプーマが生産を担い、デザインも双方が手掛けたといわれています。
当時、アディダスやプーマの工場で作られていた(写真は現行品)
ただ主な工場は東欧最大の靴の生産国、スロバキア。だから今日も、スロバキア製のジャーマントレーナーが王道と認識されてるんですね。
ところでジャーマントレーナーって、他の定番スニーカーと違っていろんなブランドから発売されてますよね? これはなぜなら、販売目的のない軍用品で、商標登録をしていないから。だからスニーカーとして大人気となってからは、さまざまなブランドのジャーマントレーナーがあるわけです。
そんな人気の立役者となったのが、日本のシューズメーカー、タナカユニバーサル(※1)。そして世界的デザイナー、マルタン・マルジェラ(※2)です。
ドイツ軍のジャーマントレーナーは1994年に支給が終了し、スロバキアの生産工場も閉鎖してしまいます。しかしタナカユニバーサルが工場を再稼働し、残っていた機械や型紙、ソールやナイフなどを使い、98年に復活させたのです。
するとパリの展示会でこれを見たマルタン・マルジェラがとっても気に入り、タナカユニバーサルに自分たちのジャーマントレーナーの生産を依頼します。
しかしタナカユニバーサルは「自由に作っていい」と回答。そして02年にマルジェラのコレクションで発表すると、ジャーマントレーナーはスニーカーとして世界的に人気が爆発したのです。
ちなみにマルジェラは自分たちのジャーマントレーナーを、「レプリカ」と称しています。これはタナカユニバーサルの「自由に作っていい」との回答に感銘を受けた、マルジェラの敬意の表れだともいわれているんですよ。
自身のジャーマントレーナーにはリスペクトの意が込められている
《メゾン マルジェラでも定番となったジャーマントレーナー》
ヴィンテージのジャーマントレーナーを愛用していたといわれるマルタン・マルジェラ。ちなみにレプリカタグはヴィンテージの価値観を大切にしたアイテムに使われる。タグのProvenance(起源)にはオーストリアとあるが、これはプーマのオーストリア工場で作られた、ヴィンテージをベースにしたことを意味している。
そして今となってはさまざまなシューズブランドからファッション業界も、ジャーマントレーナーにゾッコン♡ マルジェラに続いて数々のメゾンもジャーマントレーナーを手掛けたほか、リプロダクション オブ ファウンドのように忠実なスロバキア製と、上質な素材でアップデートを行うシューズブランド。
リプロダクション オブ ファウンド
トレラン用のビブラムソールを使ったオルフィックや、レザーソールでドレスアップしたエンダースキーマとフット・ザ・コーチャーなどのアレンジモデルも大豊作。
左/オルフィック 中/エンダースキーマ 右/フット・ザ・コーチャー
さらにMHL.(※3)といったファッションブランド、ビームスなどセレクトショップオリジナルにまでラインナップしているほど。
またシップスでは、大のジャーマントレーナー好きというバイヤーの瀬谷さんが、激レアなヴィンテージを買い付けてお店で販売していたりも。
シップス バイヤー
瀬谷俊法さん
洋服屋だった父の影響を受けてファッションに開眼。洋服、スニーカーから美容にも精通し、24歳にしてバイヤーに就任した敏腕だ。
「いま一番のスニーカーはアディダスのBWアーミー、ネイビー!」―瀬谷さん
《お気に入りの1足!》
「70~80年代のクラシカルなスニーカー、なかでもジャーマントレーナーが大好物♡ ヴィンテージのジャーマントレーナーを持っていましたが、ついに履き潰してしまい……。ただ心の穴を埋めてくれたのがBWアーミー。オリジナルにないネイビーも最高です!!」
ジャーマントレーナー(ヴィンテージ)
「これは滅多に見られないグレーアッパーなんですよ! 白よりも色が濃いめなので、上達した訓練生に支給したのかな(笑)? レアな色を見つけるのもジャーマントレーナーの楽しみですね」
加えて最近では、ジャーマントレーナーだけでなく、世界各国のトレーニングシューズに人気が飛び火。クラシカルなブリティッシュトレーナーやフレンチトレーナーをはじめ、近代の訓練用シューズを生産する、ダッドシューズライクなマグナムといったブランドも注目の的になっています。
左/ブリティッシュトレーナー 右/フレンチトレーナー
いわばスニーカーシーンのなかでも、とりわけ群雄割拠な熱いカテゴリー。次なる旬のキーワードは“トレーナー”。識者たちは、すでにそう見ています。
【タナカユニバーサル】(※1)
1942年創業、シューズ企画や販売を行うメーカー。ジャーマントレーナーを復活させ、マカロニアンやセボといった自社ブランドのほか、メゾンとのコラボも多数手掛けている。
【マルタン・マルジェラ】(※2)
ベルギー出身のデザイナーで、メゾン マルジェラの創設者。ジャーマントレーナーをはじめ、仏陸軍M‐47トラウザーズの素晴らしさを世界に知らしめたことでも有名。
【MHL.】(※3)
英国を代表するデザイナー、マーガレット・ハウエルのカジュアルライン。女史が影響を受けたワークウェア、ユニフォームをもとにしたベーシックな服や、靴と鞄も支持が厚い。