特集・連載
3ブランドの靴を語らう。“シン”ニッポンの傑作靴「一体何が偉いの?」会議
靴&鞄ブランド大研究 “本当に必要なモノ”が明白になったコロナ禍の今だから……、“快適なモノ”しか身に着けたくないストレスフルな今だから……、ちゃんとした背景のあるモノしか欲しくない! というわけで、これから10年廃れない&心地よ~く過ごせる、をテーマに全99の靴&鞄ブランドを徹底研究いたします。 この記事は特集・連載「靴&鞄ブランド大研究」#13です。
靴好きの聖地=イセタンメンズにて、日本人デザイナーが手掛ける3ブランド、フット・ザ・コーチャー、カルマンソロジー、レユッカスがただいま好評の模様! その人気の理由を、買い付け担当のバイヤーと靴好きライターが緊急分析してみました。
世界最大級の取扱い数[イセタンメンズ]で超売れてる3ブランドの靴を語らう
日本人の足に合うのは当然、さらにその先の境地へ!
左/【本格靴】取材歴25年 ライター 吉田 厳さん 右/【本格靴】バイヤー歴5年 伊勢丹新宿店 紳士靴 バイヤー 宮下創太さん
吉田さん(以下敬称略) 最近革靴人気が戻ってきたそうですね。
宮下さん(以下敬称略) 皆さんスニーカーに飽きたんでしょう。正統派のストレートチップなどは依然厳しいのですが、カジュアルに合わせられる革靴がとても好調です。
吉田 となると、この3ブランドが売れているのも納得。程よくボリュームがあって、たとえば太パンなんかとも合わせやすいから。「フット・ザ・コーチャー」なんて、サービスシューズ(*1)のようなフォルムです。
フット・ザ・コーチャー
宮下 この靴、よく見ると綺麗な木型をしているんですよ。欧米のサービスシューズほどゆったりしすぎず、現代の日本人の足型にぴったり馴染むよう設計されているからですね。もちろん踵も小さめです。だからどこかシャープさもあり、モードライクにも履ける。
吉田 あの“マーチンソール”からインスパイアされた独自開発ソールを備えているのも面白い。それでいてストリートな感じは薄く、品よく履けそう。
宮下 これ一足あればビジネスからカジュアル、そしてモードまで合わせられる。雨にも強いし、現代日本人の最強の実用靴という印象ですね。
吉田 「カルマンソロジー」は、迫力あるロングウイングチップながら、独特の繊細さやドレッシーさを感じさせるのがいいな。
カルマンソロジー
宮下 約3cmの間に12針もステッチを入れる出し縫いなど、随所の超絶技巧が美しく、いい意味での緊張感ある佇まいに貢献しているんだと思います。
吉田 ウイングラインを履き口のラインと並行になるよう伸ばすなど、細かな部分まで美意識が行き届いている。
宮下 あおり歩行(*2)を考慮した内振りの木型でありながら、デザインのうまさでそう見せていないのもさすがです。
吉田 「レユッカス」のUチップは、3.3cmとメンズではやや高めのヒールがセクシー。背筋も伸びそうです。
レユッカス
宮下 これは「カリーナ」という木型。高さがあるのに、足が前に行かないよう甲やウエストでホールドしてしっかり重心を支える秀逸な木型で、長時間歩いても疲れにくいのも特徴です。ちなみにデザイナーの村瀬由香さんはアスリート靴のキャリアもあり、革のハギやステッチなども足の神経や骨に当たらないよう配慮してデザインしているそうです。
吉田 エンツォ・ボナフェ(*3)で生産しているだけに革も仕立ても素晴らしいです。いずれにしろこの3ブランドからは、日本人デザイナーらしい繊細な感性とマニアックなこだわりがヒシヒシと感じられますね。
宮下 同感です。ファッション目線からも、ボクのようなディープな靴好きの目線からも納得のいく仕上がり。だから売れているんだと思いますよ。
(*1)サービスシューズ
軍人に支給される式典用の靴のこと。いろんな人の足型に合わせるよう、ゆったりした木型を採用している。デザインは外羽根式のプレーントウが基本。
(*2)あおり歩行
踵の外側→小指の付け根→親指の付け根と円を描くように重心を移動させてから蹴り出す歩き方のこと。健康な足は、自然とこういう歩き方をしている。
(*3)エンツォ・ボナフェ
1963年創業のイタリアの名門靴ブランド。その高い技術力を見込み、レユッカスはブランドスタート時からメンズ・レディスとも製作をここに依頼。
「現代の日本人にとって最強の実用靴と言えるデキ」―宮下
フット・ザ・コーチャー
FOOT THE COACHER[フット・ザ・コーチャー]
エス・エス・シューズ
癖のないプレーントウデザインに、クラウス・マーチン博士考案のエアクッションソールを現代の素材・技術で再現した「ルフトソール」を装着。アッパーには撥水性のあるレザーを使用。4万8400円(フット・ザ・コーチャー)
「ソールも完全オリジナルでこのプライスは驚異的」―吉田


英国の靴博物館に作品が展示
FOOT THE COACHER[フット・ザ・コーチャー]
Since 2000 日本
大学時代から独学で靴作りを始め、作品がイギリス・ノーサンプトンの靴博物館にも永久展示される竹ヶ原敏之介氏のブランドのひとつ。カジュアルな靴が多く揃う。
「重厚なロングウイングなのに繊細さを感じさせるのがいい」―宮下
カルマンソロジー
CALMANTHOLOGY[カルマンソロジー]
A918
普通ロングウイングチップは派手になりがちだが、精緻な穴飾りや数珠繋ぎのように細かいステッチで美しくまとめあげたモデル。アグレットのタッセル飾りもクラシカルで良いアクセントに。11万円(カルマンソロジー)
「3cmに12針の細かさはなかなかお目にかかれない」―吉田


セレクトショップのラブコール多数
CALMANTHOLOGY[カルマンソロジー]
Since 2018 日本
国産靴ブランドでデザイナーとして研鑽を積んだ金子真氏が始動。ときに変態的とも称されるこだわりで、日本の最高峰の職人技を駆使した美しい靴をリリースし続けている。
「美しいウィングラインにより横顔もじつにグラマラス!」―宮下
レユッカス
Le Yucca’s[レユッカス]
Uチップ
定番木型「カリーナ」にスプリットトウのUチップデザインをのせたモデル。細かなシボ模様を描くグレインレザーも独特の色気に貢献。こちらは伊勢丹別注モデルで、キルトも付属。4月20日発売。19万8000円(伊勢丹新宿店)
「背筋を伸ばしてくれる3.3cmのやや高めなヒール」―吉田


日本人デザイナーの感性が生きる
Le Yucca’s[レユッカス]
Since 2000 イタリア
数々の有名ブランドでシューズデザインを担当した、イタリア在住の村瀬由香氏が立ち上げたブランド。美しさのうちに人間工学的な見地が生きるモデルを手掛けている。
※表示価格は税込み
[ビギン2022年6月号の記事を再構成]スタッフクレジットは本誌をご覧ください。